フェムテックは日本に必要な市場
——2019年には奥田さんが中心となってFemtech and BEYOND.というプロジェクトを立ち上げました。
フェムテックは生理痛、産後のうつ状態、更年期障害など、女性の健康上の問題をテクノロジーで解決するというものですが、どんなきっかけで始まったのですか?
奥田:大企業の経営層や経営企画の方と新規事業の話をする前提知識として、2017年頃からシリコンバレーやヨーロッパのテクノロジーやスタートアップの動きを注視していました。フィンテック、アグリテックなど、雨後の筍のようにいろいろなテクノロジー領域がキーワード化されるなかで、フェムテックを知ったときに、「これは絶対に日本に必要な市場になる」とピンときたんです。
たまたま同じタイミングで、社内のクリエイティブ部門の上長の方から、「女性の健康課題について部下が問題提起をしている。何かできないか」という相談がありました。
——どんな相談だったのですか?
奥田:育児休業明けの2人の女性社員から、そのママ友たちが1年間休んでいたたら人事評価を下げられたという話をよく聞いた。一般的によくある話のようだが、それを当たり前だと思うのはおかしいんじゃないか、といった内容で、私がフェムテックが必要になると直感的に感じたときとガッツリつながりました。
コロナの感染が拡大している時期だったので、オンラインセミナーをやってみませんかと提案し、フェムテック市場にはどんな企業が存在するのか、日本における課題は何か、電通には何ができるのか、といったことを彼女たちのいる東京と私のいる大阪でオンラインでつないでワーッと話した時に、プロジェクトの核ができたんです。
——コロナだったからオンラインでつながりやすかった、ということもありますか?
奥田:そうですね。継続的に話ができたのは、テクノロジーが場所の遠さをカバーしてくれたからだし、オンラインセミナーを開催したのは、人々が外出できなくなって時間を持て余し始めた時期でした。多くの人が注目してくれて、すごい手応えがあったんです。タイミングの奇跡を感じました。
——それでプロジェクトが立ち上がったんですね。
奥田:生理がしんどい、産後のうつがしんどいといっても、男性はなかなか共感できないですよね。女性の中でも、生理痛が軽い人、重い人と個人差があります。フィンテックとかIoTとかのテクノロジーは万人が便利さを享受できるけど、フェムテックはそうじゃない。でも、共有できる課題がある。
だから、その人だけの問題じゃないんだよ、社会の課題なんだよ、ということを万人が共感できる形で示していくことにクリエイティブの力が不可欠です。私のいる新規事業をつくる部門と、彼女たちのクリエイティブ部門の専門性で、日本のフェムテック市場の創成期にできることがあるんじゃないかと思って立ち上げました。
私たちのプロジェクトは、フェムテックというテーマに関心のあるメンバーが集まっているので、若手や男性メンバーも多いところが特徴でもあります。個々人の想いをベースに企業のフェムテックのコンサルティングや新規事業の立ち上げ、メディアと組んでフェムテックそのものや、性教育といったテーマの啓発プロジェクトなど、いろいろなことを並行してやっています。


