
Z世代と女性が牽引する「多様性のファンダム」
DTSによって「ストーリー」からF1に入った新しいファンたちは一体、どのような層で、何をF1に求めているのか。その答えを示したのが、F1とMotorsport Networkが発表した「2025年グローバルF1ファン・サーベイ」。この10万人以上が回答した大規模調査は、F1のファンダムが劇的に「若返り」「多様化」している現実を突きつけた。
レポートが示す事実は、新規ファンの実に4分の3が女性であるという点。さらに、Z世代(18~24歳)の回答者の約半数が女性で占められていた。これは、かつての「男の世界」であったモータースポーツのイメージを覆す。なぜ、これほどまでに若い女性たちがF1に惹きつけられているのか。サーベイは、その動機が「クルマ」や「スピード」よりも、「ドライバーの個性」や「ナラティブのドラマ性」にあることを示唆している。
女性ファンにとって、ドライバーは単なるアスリートではない。ドライバーは、SNSを駆使し、自らのライフスタイルや葛藤を発信する「インフルエンサー」であり、感情移入の対象だ。レースウィークのパドックは、ドライバーの最新のファッションをチェックする場ともなり、F1はスポーツとカルチャーが交差する最前線となった。
さらに、この新しいファン層は「デジタルネイティブ」、エンゲージメントの仕方も従来とは異なる。新しいファンはテレビの生中継を待つだけでなく、SNSやストリーミング、ハイライト動画を通じ、日常的にF1コンテンツに触れている。サーベイによれば、回答者の61%が毎日何らかのF1コンテンツに触れており、特に米国のZ世代に至っては、その70%が毎日エンゲージしているという。
この「常時接続(Always-on)」のファンダムこそが、現代のマーケティングが目指すべき姿だろう。F1は、週末のレースだけでなく、シーズンオフの移籍情報、トレーニング風景、そしてDTSのような裏側コンテンツ(スピンオフ)を絶え間なく供給することで、ファンの熱量を一年中維持することに成功している。
サーベイが示すもう一つの重要なトレンドは、米国市場の爆発的な成長だ。かつては欧州のスポーツというイメージが強かったF1だが、今や米国は調査回答者の国別シェアで最大となり、もっともダイナミックな市場へと変貌。米国のファンは特に若く、デジタルへの感度が高く、そして何より「スポンサーへの反応が極めて良い」という特徴がある。グランプリが開催されない米国において、ニューヨーク在住だった私が、毎年モントリオールGP観戦の為にカナダまで足を伸ばしていた1990年代から隔世の感がある。
レポートによれば、回答者の76%が「スポンサーはF1体験を向上させる」と肯定的に捉えており、Z世代の40%が「F1のスポンサー製品を購入する可能性が高い」と回答。これは広告を「ノイズ」としてではなく「カルチャーの一部」として受け入れる新しい消費者像の表れだ。23年には角田がアルファタウリ(かつて自身が所属したチーム名かつブランド名)の六本木ポップアップストア発表会に登場、4度F1王者を獲得しているマックス・フェルスタッペンが25年「アルファタウリ」のブランド・アンバサダーに就任したのは、こうした流れの一環だろう。F1チームとハイブランドとのコラボレーションは、応援するチームをサポートする「参加型」の体験であり、自らのアイデンティティを表現する手段でもある。
F1は「ストーリー」によってZ世代、女性層という新しい顧客を呼び込み、ファンが求める「常時接続」のデジタル体験を提供、そしてファンの高いエンゲージメントを「スポンサーシップ」という形で強力な収益源に変えている。この好循環こそが、F1の現在の強さの源泉だろう。


