スポーツ

2025.11.17 15:15

アップル巨額投資のF1が示すスポーツビジネスの未来と日本の課題

提供:鈴鹿サーキット

「リザルツ」ではなく「ストーリー」を売ったNetflixの底力

F1変革の序章は「リザルツ」ではなくその裏側にある「人間ドラマ」に光を当て直した施策からスタートした。ニールセンスポーツ(以下、ニールセン)が22年に発表した「Driven To Watch」と題された分析レポートは、その効果を冷徹なデータで浮き彫りにしている。このレポートの主役は、Netflixのドキュメンタリーシリーズ『Formula 1: 栄光のグランプリ (原題『Drive To Survive』、以下DTS)』だ。DTSが異例だったのは、レースの勝敗やラップタイムといった「リザルツ」を追うのではなく、ドライバーたちの苦悩、チーム代表たちの政治的な駆け引き、ライバル同士の確執という生々しい「ストーリー」を赤裸々に描いた点。1990年代、マクラーレン・ホンダという同一チームにありながら、アラン・プロスト、アイルトン・セナが王者を競った、かつての「セナプロ対決」を知る世代なら十二分に理解できるだろう。

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ニールセンによれば、この戦略が驚異的な結果を生んだ。DTSは、F1レースを観た経験のなかった視聴者を、実際のレース中継へと誘導する強力な「エントリーポイント」として機能。22年の時点で、DTS視聴者の実に41%が、その後のF1シーズン本戦レースを視聴。さらに視聴後、実際にF1レース観戦に足を運んだ「新規ファン」は、米国だけで36万人以上となっている。

マーケティングにおけるパラダイムシフトとでも呼ぼうか。従来のスポーツ中継は、複雑なルールや過去の文脈を理解している「既存ファン」向けのコンテンツだった。初心者は、往々にしてその知識の壁の前で立ち往生するケースが見られた。しかし、DTSはF1を「リアリティショー」化。エンジン形式やタイヤ戦略を知らずとも、若きドライバーがシートを失うかもしれない恐怖や、トップチームのエースが抱える重圧には、誰もが感情移入できよう。ニールセンのレポートはさらに、この「ストーリー」戦略が、従来とはまったく異なる新しいファン層を掘り起こしたことを示している。DTS経由でファンになった層は、従来のファンに比べ「より若く(34歳以下が46%)」「より高学歴・高収入で、子供を持つ家庭が多い」という特徴があった。F1は「クルマ好き」というニッチなコミュニティに語りかけるのをやめた結果、「スポーツファン」というカテゴリーを超え、まったく新しい顧客層の獲得に成功した。

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