暗号資産

2025.11.16 15:30

著名女性ラッパー「イギー・アゼリア」、暗号資産の独自トークンを展開

ラッパーのイギー・アゼリア(Photo by Ethan Miller/Getty Images)

米国の規制と市場の変化が、金銭的報酬を生む可能性

彼女は今、米国の規制や市場構造の変化によって、新たな可能性が開かれつつあると考えている。「セレブリティが自らの存在を通じて、ファンに“体験”や“感情的なつながり”を提供しながら、同時にそのコミュニティに属することで実際に金銭的な報酬を得られる──そんな仕組みが、少なくとも暗号資産の世界で初めて生まれようとしている。音楽家や俳優のファンという従来の関係性の延長で、経済的にも支え合える形になれるというのは、大きな変化だと思う」。

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「私たちは現在、ボンディングカーブ型(トークンの価格が発行量に応じて自動的に上昇していく仕組み)のモデルから離れようとしている」と、Thrustの主要創業者の1人であるジェイク・アンティファエフは語る。「従来のモデルでは、スナイピング(先回り購入)や供給の囲い込みを防げなかった。恩恵を受けたのは“最初に買った人”であって、本当の支持者ではない。私たちは、公平にトークンを配布できる“プレセール型”という原点の仕組みに立ち返るつもりだ」。プレセール型は暗号資産(トークン)を一般公開前に一部の者に販売する手法を指す。

アンティファエフは、この方式こそが、信頼を取り戻す鍵になると主張する。「暗号資産の業界は、投資家やスナイパー(瞬時に買って利ざやを得る人々)に食い物にされ、価値を奪われてきたことにうんざりしているんだ」。

この新しい試みにアゼリアとともに参加しているのが、レンゲシュ・ムタマ(通称N3on)だ。彼はYouTubeやTikTokでNBA 2Kシリーズの実況配信を行う人気ストリーマーで、Thrustのプラットフォームに参加する初のセレブリティとなる。

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「視聴者はこれまで、ただ見て応援するだけで、そこから収益を得る手段はなかった。でもThrustの仕組みを使えば、みんなが一緒に参加して、僕たちの活動の一部になって、一緒に稼ぐことができるんだ」とN3onは述べている。

かつてイーサリアムのヴィタリック・ブテリンと対立、物議を醸す

しかし、暗号資産業界のすべての人がアゼリアの理念を支持しているわけではない。そもそもセレブリティが暗号資産に関わること自体に懐疑的な声もある。2024年にセレブトークンがブームとなった際には、イーサリアムの共同創業者ヴィタリック・ブテリンが「セレブリティトークンには実用性がなく、単なる金融化の遊びになっている」と公に非難した。

アゼリアはこれにすぐ反応し、高額なガス代を理由にイーサリアムを批判し、挑発的で物議を醸すミームを投稿した。

SECが違法な宣伝行為で著名人を摘発、キム・カーダシアンは約1億9000万円の罰金

2024年に登場したセレブコインの多くは、その後大幅に価値を失い、一部の人が高値で売り抜けただけだと非難されている。アゼリアが掲げる「エンタメやファンダムを通じて価値を生み出す」という理念が、彼女のプロジェクトの約束どおりに実現するのかどうかは、まだわからない。

アゼリアとアンティファエフ、N3onらの取り組みは、単なる話題づくりではなく、公平性やコミュニティ性、実用性を重視する“新世代のセレブトークン”を象徴していると筆者は考えている。ただし、彼らが自らの知名度を他者の利益に結びつけようとした最初の例というわけではない。すべての始まりは、2018年に米証券取引委員会(SEC)から違法な暗号資産宣伝行為で訴追されたプロボクサーのフロイド・メイウェザーとDJキャレドだった。その数年後、別の著名人も同様の宣伝行為を理由にSECの摘発を受けた。

2022年には、当時のSEC委員長のゲーリー・ゲンスラーが、イーサリアムマックス・トークンを適切な開示なしに宣伝したとして、キム・カーダシアンを起訴した。この件は、規制当局がセレブによる暗号資産詐欺を容認しない姿勢を明確に示すものとなった。カーダシアンは126万ドル(約1億9000万円)の罰金を支払い、その後の3年間、暗号資産の宣伝を行わないことで和解した。

トランプ政権下で暗号資産寄りの姿勢を示すSEC

それでも、政治家やエンタメ業界の有名人たちは暗号資産への関与をやめていない。その中でも最も大胆だったのがトランプ大統領だ。彼は2025年の就任直前、暗号資産業界が自身の功績を称えて開催した「就任記念ボール」と同じ夜に、ミームコインを発行した。

トランプ政権下のSECは、暗号資産寄りの姿勢を鮮明にしている。SECの財務部門は「ミームコインは原則として有価証券には該当しない」とする声明を発表したが、これによりコイン自体が有価証券とみなされない限り、セレブがコインを宣伝してもSECが「不当な宣伝行為」として取り締まる根拠はなくなるとみられている。

そして現在問われているのは、市場とファンがこの新時代のセレブリティ・トークンを受け入れる準備ができているのか、それとも次の熱狂の波が、またしても失望と規制強化の連鎖を招くことになるのかだ。

編注:本稿は情報提供のみを目的とするものであり、特定の暗号資産やサービスの利用を推奨するものではありません。日本の場合、暗号資産の独自トークンを業として取引する行為は、日本の金融庁・財務局に登録した暗号資産交換業者が行えます。登録がない暗号資産交換業者において、暗号資産を取引することは推奨しません。暗号資産を取引する際は、金融庁が公開している「暗号資産交換業者登録一覧」をご確認ください。海外セレブが自分の独自トークンを日本居住者に対して業として販売・仲介を行った場合、海外セレブ側は資金決済法、金融商品取引法に抵触するおそれがあります。

またオンライン上で行われる賭博は犯罪です。海外で合法的に運営されているオンラインカジノでも、日本居住者がアクセスして賭博を行えば賭博罪などに問われます。海外セレブなどオンラインカジノ運営者は日本の刑法に問われ、刑事責任を負う可能性があります。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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