人を見た目で判断してはいけないと言うが、息子を名乗る人物の代理人と称する人が頼まれた200万円を取りに来たと言見た目で悪い人を判別できる確率は6割弱。高齢者が騙されやすいわけではなかった
人を見た目で判断してはいけないと言うが、息子を名乗る人物の代理人を名乗る人が「頼まれた200万円を取りに来た」と訪ねてきたその切羽詰まった状況で、その人が信頼できるかどうかを判断する材料は第一印象しかない。そこで高齢者がコロッと騙されるニュースが多く報道されるせいか、高齢者は人を見る目がないというのが定説になってしまった。しかし実験の結果、それは誤りだとわかった。
相手の顔だけを見てその人の信頼性を判断するとき、歳をとるほどに他人を信頼しすぎるバイアスが強まり、詐欺被害に遭いやすくなるという説がまことしやかに語られているが、科学的根拠は乏しい。そこで、東京大学、帝京大学、専修大学による研究グループは、それを検証すべく日本人とイギリス人の若年者(18〜30歳)と高齢者(65〜80歳)に参加してもらい心理学実験を行った。
実施した実験は3つ。ひとつは、過去に経済ゲームをプレイして、相手に協力的で中程度の報酬を得る行動を繰り返した男性と、非協力的で自分だけ大きな報酬を得る行動を繰り返した男性の顔写真(真顔)を参加者に見比べてもらい、信頼できる人かどうかを判断してもらった。次の実験では、その男性の笑顔の写真を使用した。
その結果、信頼できない人を見抜いた平均正答率は、全体で55パーセント前後だった。2回の実験では、ほんのわずかながら高齢者のほうが正答率は高かった。また、どの顔を見ても信頼できないと感じる「ネガティビティ・バイアス」は若者のほうに強かった。さらに、笑顔の写真による2番目の実験では、ネガティビティ・バイアスが若年者、高齢者ともに弱まった。
3つめの実験は、イギリス人を対象に、アメリカの中高年男性政治家の写真を使って行われた。その政治家の半数は汚職事件で有罪になった経歴がある。参加者には、その顔写真から汚職歴のある人物を当ててもらったのだが、ここでも、高齢者のほうがわずかに正答率が高かった。また日本人の実験と同じく、ここでもネガティビティ・バイアスは若者のほうが強かった。
この実験から、高齢者は人を見た目で信じやすく騙されやすいという主張は正確ではないことがわかった。この実験は信頼できるか否かの2択だったので、当てずっぽうでも5割の正答率になる可能性がある。ただ結果を見ると、正答率は統計的な有意性を示す5パーセントを超えているので、それなりに意味があると判断できる。
いずれにせよ、見た目だけでは判断は難しく、それは若者でも高齢者でも同じだった。顔だけで人を判断してはいけないことが、数値で示されたわけだ。



