地球外知的生命体の発見を目的に設立された「SETI研究所」は、宇宙から飛来する電波を電波望遠鏡で追跡することにより、その痕跡を探し続けている。SETIとは“Search for Extraterrestrial Intelligence”の略称で、「地球外知的生命体の探査」を意味する。
北カリフォルニアにあるSETI研究所は10月31日、42基のアンテナで構成される「アレン望遠鏡アレイ(ATA)」に、エヌビディアの超高速エッジAIプラットフォーム「IGX Thor」を導入することを発表した。このAIシステムによってATAは、これまでより高精度かつ即時的な探査が可能になる。
エッジAIプラットフォームとは、データをその発生源の近くでAIによって事前処理し、高速かつ低遅延なコンピューティングを実現する分散型演算システムのこと。データの発生源とは、アレン望遠鏡の場合は42基それぞれのアンテナを意味し、そこに実装される「IGX Thor」が個々の信号を事前に処理してAI推論を行う。この工程を経ることで重要なデータだけが中央のデータセンターに送られ、その結果、データ認識に掛かる時間が大幅に短縮され、リアルタイムに観測結果が得られるようになる。
エヌビディアの最新のGPU設計思想「Blackwell」が投入された「IGX Thor」は、エッジAI分野で過去最高レベルの処理能力を誇り、そのスペックである「5,581 FP4 TFLOPS」は、1秒間に5581兆回の演算(浮動小数点演算)を意味する。これは同社の前世代モデル「IGX Orin」(約700 FP4 TFLOPS)の最大8倍におよぶ。
未解明の「Wowシグナル」
SETIという名称は、「Wowシグナル」によって一躍有名になった。1977年8月15日、オハイオ州立大学の電波望遠鏡「ビッグイヤー」が強力な電波信号をキャッチし、その異常数値に気づいたスタッフ、ジェリー・エーマンが、データシート上に「Wow!」とメモしたことからこう呼ばれている。
ビッグイヤー電波望遠鏡では50の周波数チャンネル(10kHz幅)を12秒間隔で記録していたが、発見された謎の電波はその1チャンネルの狭い帯域幅(1420.4556 ± 0.005MHz)に集中している。電波の強度は1から9、それ以上に強くなるとアルファベットで表される。通常の背景ノイズ(宇宙からの電波)は1から4程度の値を示すが、Wowシグナルのデータシート上には「6EQUJ5」と印字されていた。つまりその最高測定値「U」は、30以上という極端に強い電波であることを意味する。このWowシグナルは72秒間にわたって観測された。



