2008年の金融危機(リーマン・ショック)を教訓に、米国では消費者を守る金融監督機関「消費者金融保護局(CFPB)」が設立された。銀行の不当な手数料をはじめ、金融商品を横断的かつ厳しく監視する「消費者保護の番人」だ。
だが、トランプ政権はCFPBを「企業に敵対的」と見なし、その権限を意図的に縮小してきた。政権の意向を受けて、行政管理予算局(OMB)長官およびCFPBの暫定トップとして実行しているのが、「解体屋(Hatchet Man)」ラッセル・ボートだ。ボートによるCFPBの機能停止が、今まさに米国の消費者を危険に晒している。影響範囲は、自動車ローン、デジタル決済、クレジットカード、信用情報にまで至る。
消費者金融保護局が命じた消費者への返金をトランプ政権が取り消し
2年前、消費者金融保護局(CFPB)は、トヨタの金融子会社「トヨタ・モーター・クレジット」に対して、消費者に数千万ドル(数十億円)を返還するよう命じた。同局は、トヨタの販売店が自動車ローン契約者に対して、保険や車両サービスなどの不要なオプションが必須であるかのように装ったり、契約書に紛れ込ませていたという。CFPBは当時の声明で、この行為が消費者の苦情によって発覚したと説明していた。
トヨタの悪質な販売手法に対して、約73億円の返金命令
悪質だったのは、不要なオプションを解約しようとトヨタに電話をかけた消費者への対応だ。担当者は、顧客が3回「解約したい」と明確に伝えるまで販売を続けるよう訓練されていたうえ、その通話中に解約を完了させることはできず、最終的に書面での申請を求められた。2016年から2021年の間に、この専用窓口には11万8000件の電話が寄せられたという。CFPBは2023年、こうした違反行為に対してトヨタに4800万ドル(約73億円。1ドル=153円換算)の返金と1200万ドル(約18億4000万円)の罰金を命じた。
しかし今年初め、金融規制の大幅な緩和を掲げるトランプ政権は、この命令を取り消し、トヨタが4800万ドル(約73億円)を消費者に支払う義務を免除した。同様のことは、米海軍連邦信用組合(ネイビー・フェデラル)にも起きている。同組合は、現役軍人や退役軍人を含む顧客の口座残高がプラスだったにもかかわらず、不当に手数料を課していたとして、8000万ドル(約122億円)を返還するよう命じられていたが、この命令も後に取り消された。
トヨタはフォーブスのコメント要請に応じなかった。ネイビー・フェデラルは昨年の声明で、「今後も、これまでと同様に、適用されるすべての法令と規制を遵守し続ける」と述べていた。
消えた救済金、企業の懐に残る約184億円
トランプ政権が22件のCFPBによる法執行措置を恒久的に取り下げたことで、本来なら消費者に支払われるはずだった少なくとも1億2000万ドル(約184億円)が、企業の懐に残る結果となった。同政権がこの方針を続けてCFPBの命令を取り消し続ければ、追加の2億4000万ドル(約367億円)を消費者が受け取れなくなる可能性があると消費者保護団体の全米消費者連盟(CFA)とプロテクト・バロワーズは指摘している。
CFPB設立の歴史、約3.1兆円の救済金支払い実績
米議会は金融危機後の2010年、トランプの宿敵として知られるエリザベス・ウォーレン上院議員の提案を受け、オバマ大統領が署名したドッド・フランク法の一環としてCFPBを設立した。同局は金融関連法の執行、規制ルールの策定、金融サービス企業の監督を担っており、特に銀行や証券の監督対象から漏れがちなノンバンクの取り締まりに重点を置いてきた。設立以来、CFPBは企業に対し、1億9500万人の消費者に総額200億ドル(約3.1兆円)の救済金を支払わせ、50億ドル(約7650億円)の罰金も科してきた。



