北米

2025.11.07 12:00

トランプ政権が敵視する「消費者保護の番人」、解体で深まる家計の危機

ラッセル・ボート。第2次トランプ政権において、行政管理予算局(OMB)長官および消費者金融保護局(CFPB)の暫定トップを務める(Photo by Nathan Posner/Anadolu via Getty Images)

「消費者保護の番人」が業務を停止、CFPBが崩壊

CFPBはこれまで、「消費者保護の番人」として主に舞台裏で活動してきた。大手金融機関を定期的に検査し、監査官を派遣して、差し押さえ手続きや金利計算などの取引を精査し、宣伝文句や手数料の開示内容を確認し、消費者からの苦情への対応状況を評価してきた。

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こうした検査を主導していた監督部門には、CFPBの職員1700人のうち約500人が所属していた。しかし今年2月以降、これら検査は事実上停止しているようだ。元規制当局者のエリック・ハルペリンは、「再開されたという兆しはまったく見られない」と語る。

ボートはCFPBの職員約1500人の解雇を試みる一方で、残る職員には業務の大半を停止するよう命じた。だが、この解雇措置は訴訟によって差し止められており、現在も多くの職員が仕事がないまま給与を受け取っている状況だ

苦情データベースが形骸化、企業の対応率も低下

CFPBの消費者苦情データベースは現在も稼働しているが、監督や法執行、苦情への対応がほとんど行われていないため、実効性は大きく低下している。本来CFPBは、寄せられた苦情を分析し、どの企業や業界を調査・処分の対象とするかを判断してきた。

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たとえば2022年には、消費者の苦情をきっかけに、現代自動車の金融子会社が約220万人分の信用情報を誤って報告していたことが発覚。多くの顧客が実際には延滞していなかったにもかかわらず、ローン延滞扱いにされていた。この調査の結果、同社は被害を受けた顧客に総額1300万ドル(約19億9000万円)を返金した。

苦情が法執行の根拠として使われなくなったことで、企業がそれを真剣に受け止める動機は薄れている。CFPBのデータによれば、多くの金融機関は現在も苦情に迅速に対応しているものの、一部では対応の遅れが目立ち始めている。

過去6カ月間で、ダラスの債権回収会社ProCollectと、フロリダ州ジャクソンビルに本社を置くProfessional Debt Mediationの2社が、消費者からの苦情に15日以内に回答した割合は約70%にとどまった。これは、2024年の同時期にほぼ100%という水準から大きく落ち込んでいる。また、サウスカロライナ州の自動車ローン会社American Credit Acceptanceでも、迅速な対応率が87%から57%へと低下した。3社はいずれも、フォーブスが複数回送付したコメント要請に応じなかった。

暗号資産のウォレットと取引プラットフォームのAbraでは、苦情への迅速な対応率が78%からわずか19%にまで低下した。同社の最高コンプライアンス責任者はフォーブスに対し、「苦情に関する情報の特定に遅れが生じている」と説明し、今週中に追加の回答を送る予定だと述べた。現在CFPBが事実上機能していない状況については「当社の対応率に影響はない」と付け加えた。

搾取的な商法の標的になりやすい金融商品としては、自動車ローンやペイデイローン(短期高利の給料担保融資)、住宅ローン、信用情報(クレジットスコア)を改善することをうたう有料サービスなどが挙げられる。一連のフィンテックサービスも含まれる。

監督の目が届かない「ノンバンク」、フィンテックのリスク

こうした商品を提供する「ノンバンク」は数万社にのぼり、代表的な例としてSpeedy Cash(スピーディー・キャッシュ)、Rocket Mortgage(ロケット・モーゲージ)、PayPal(ペイパル)、Klarna(クラーナ)などがある。これら企業は銀行と類似のサービスを提供しているが、連邦預金保険公社(FDIC)、連邦準備制度理事会(FRB)、通貨監督庁(OCC)の監督・規制を受けていない。CFPBが設立される以前は、ノンバンクを監督する連邦機関は存在しなかった。

黒人やヒスパニック系に差別的な扱いを続ける自動車ローン業界、違法な「キルスイッチ」

なかでも過去に問題の多い慣行を繰り返してきた経緯がある自動車ローン関連の貸し手やローン管理会社は、特に懸念が大きい分野だ。過去5年間の調査では、自動車ローン会社が黒人やヒスパニック系の借り手に対して差別的な扱いをしていたことが明らかになっている。また、2年前、CFPBは自動車ローンサービサーのUSASFを提訴した。同社は、違法に車を遠隔操作で停止・差し押さえた疑いがあるとされた。

訴状によれば、USASFはリモート式の「キルスイッチ」を使って利用者の車両を無効化し、実際には延滞していない、あるいは支払いの相談中だったにもかかわらず、7500台を誤って停止させ、借り手を立ち往生させたという。また同社は、保険料を二重に請求して3万4000人の顧客に数百万ドル(数億円)規模の損失を与えたとされる。CFPBが提訴して数週間後、USASFは破産を申請した。

自動車ローンの延滞率、金融危機時に迫る高水準

自動車ローンを抱える低所得層の米国人は、返済に苦しんでいる。2025年1月時点で、信用スコアが660未満の消費者のうち、支払いを30日以上延滞している人の割合は11%に達し、エクイファックスとムーディーズのデータで確認できる2005年以降では最高水準となった。同年9月時点でも、このサブプライム層の延滞率は10.3%と高止まりしており、2009年1月の金融危機時のピークの10.5%にほぼ並んでいる。

最近では、テキサス州を拠点とするサブプライム自動車ローンのTricolor(トリコロール)と自動車部品メーカーのFirst Brands(ファースト・ブランズ)が不正疑惑の中で破産申請した。ウォール街の投資家の間では、「米国の消費者、ひいては経済全体が、専門家の想定以上に脆弱な状態にあるのではないか」という懸念が広がった。

こうした不安定な経済環境にもかかわらず、ボートCFPB暫定局長は8月、CFPBの監督対象となる自動車ローン会社の数を現在の63社から最大で5社にまで減らす可能性について、情報提供を求める公示を行った。もし監督対象が5社にまで縮小されれば、CFPBの監督は信用スコアが660以上の優良顧客を扱う大手ローン会社に限定され、サブプライム向けの貸し手は事実上、監督の網から外れることになる。もっとも、現状のCFPBはほとんど監督機能を果たしていないのが実情だ。

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翻訳=上田裕資

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