しかし優秀な学生が大学を卒業すると、いずれかの段階で自身の幅広い能力を現実世界での具体的な成果に結びつけなければならなくなります。もちろん、「一流企業への就職」というのも1つの成果でしょう。しかしキャリアのある時点では、将来の選択肢を増やすことよりも、「特定の課題に腰を据えて取り組むこと」が必要になります。これは特に、起業を志す学生にとっていっそう重要なことです。彼らは逆転の発想をする姿勢で、他人には馬鹿げて見えるようなアイデアにも挑戦していく必要があるからです。
起業家としての才能に関して言うと、多くの人が「志(aspiration)は生まれ持って備わったもので、変えられない」と思い込んでいるようです。でも実際には、志は常に変化します。周囲の仲間、親の期待、また、取り巻く環境によって形作られるのです。私が出会ってきた多くの優秀な学生は、周囲から「君はコンサルタントか研究者になるタイプだ」と思われているようです。「自分には起業家の素質はない」と思い込んでいる人も少なくありません。でも生まれながらの起業家などいません。学ぶことで身につけられる、起業家のスキルもあります。確かに、起業家として成功する素質は存在します。しかしそうした素質を持ちながら、一度も起業に挑戦しないまま人生を終える人も少なくありません。彼らは「もし挑戦していたらどうなっていたか」を知ることはないのです。
起業家に必要な、具体的な素質について話してみましょう。私は「思考力(考える力)」は世間に過小評価されていると感じています。また、知的能力の高さは確かに重要ですが、それだけでは十分ではありません。なぜなら「決意」「野心」といった資質も成功には欠かせないからです。偉大な人物の伝記を分析してみると、成功の裏にこうした多様な資質があることがわかります。なかでも特に重要なのが、「主体性(みずから行動を起こす力)」です。
──企業や慈善団体が行っているタレントサーチは、才能に関する科学研究にどのように貢献できますか?
ここで挙げた新たなプログラムはすべて、伝統的な学術研究の枠を超えて行われている、人材の選抜と育成に関する新たな試みです。企業や資金提供者はそれぞれ異なる人材を求めており、それに合わせて多様なプログラムが運営されています。その多くがあらかじめ明確な目標を設定しているため、大学などが主導してきた従来型のタレントサーチと比べ、選抜と育成の手法がより具体的かつ実践的です。
こうした新世代型プログラムは、優れた思考力や特定の知的能力、その他の資質が各分野での成功にどれくらい重要な役割を果たすのかを明らかにするとともに、教育プログラムの成果や人材育成・配分のあり方を探る貴重な機会にもなっています。一部のタレントサーチは若い世代を対象としており、高い思考力とその後の成功、達成意欲・忍耐力・好奇心などとの相互関係を理解する手がかりにもなるでしょう。さらに、人間の思考力が及ぼす社会への影響、ひいては心や知性そのものの理解を深めることにもつながります。
これらの人材選抜・育成プログラムのデータは初期のSMPYが行ったように、数年後には長期的な追跡研究に活用できるかもしれません。それは世界各地で人材選抜を行っているまざまな組織や分野にまたがって実施される可能性があります。異なる条件下でもプログラムの成果が同じように得られるかを検証する機会にもなるでしょう。さらに、ギフテッド教育に携わる指導者や実務者の業務に役立つ、人材発掘や指導法に関する指針も得られるかもしれません。


