ビジネス文書の標準フォーマットとして揺るぎない地位を築いてきたPDFと、その編集・閲覧アプリケーションであるAdobe Acrobatが誕生から約32年を迎えている。ドキュメントのデジタル化に留まらず、時代ごとのニーズに寄り添いながら進化を遂げてきた。そして今、生成AIの波がドキュメント活用のあり方を再び大きく変えようとしている。
米アドビの日本法人であるアドビ株式会社で、Adobe Acrobat製品を担当するDocument Cloud プリンシパルプロダクトマーケティングマネージャーの立川太郎氏に、これからの時代に求められるPDFの活用術を聞いた。
約3兆ファイルが存在、紙の印刷技術から誕生したPDF
今ではビジネスマンからクリエイター、学生にも広く使われているPDFだが、その起源は印刷技術とも深く結び付いている。「PDF(Portable Document Format)は、当初プリンターのプログラミング言語であるポストスクリプトから始まっている」と立川氏は振り返る。
かつては、ユーザーが使用するパソコンのアプリケーションが出力するデータとプリンターの互換関係によりフォントやレイアウトが崩れて、紙の印刷物の品質に影響が出ることがあった。この問題を解決したのがPostScript(ポストスクリプト)というページ記述言語だ。PostScript対応のプリンターで、ドキュメントや画像を高品質に出力するための技術が、レーザープリンターの普及に足並みを揃えながら急速に拡大した。
その後、印刷の世界で標準となった技術を、OSやデバイスが異なっても同じようにデジタルドキュメントを表示できるフォーマットに応用したいという発想から、1993年6月にAdobe Acrobat 1.0が生まれた。当初から閲覧ソフトのAcrobat Readerが無償で配布され、インターネットの普及も相まってPDFの利活用が進んだ。

2008年には国際標準化機構(ISO)によってオープンソース化され、誰でもPDFファイルを閲覧・作成できる環境が整った。その後、PDFの地位は不動のものとなる。2010年代に入ってから、PDFにさまざまな機能が追加される。例を挙げればセキュリティ機能や電子署名、タイムスタンプといったドキュメントの安全性を確保するための機能が加わった。以後は契約書など、重要な電子書類もPDFで作成されるようになり、ビジネスファイルのデジタル化・ペーパーレス化を後押しする原動力となった。
立川氏は現在のPDFの構造を「さまざまなレイヤーを持つ情報のコンテナ」に例える。テキストや画像といった表示部分に加え、フォームデータ、添付ファイル、さらにはセキュリティ情報までを内包できる「多層構造」を備えていることがPDFの特徴だ。
アドビの調査によると、今日では世界中に約3兆ものPDFファイルが存在する可能性があるという。過去1年間にアドビのアプリケーションで開かれたPDFファイルの総数は4000億以上にもなる。ビジネスシーンにおける共通のプラットフォームとなったPDFは、今もなお進化を続けている。



