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2025.11.09 13:00

米TV視聴率調査の王者ニールセンを脅かす、「AI活用」VideoAmpの台頭

Taljat David / Shutterstock.com

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米国のテレビ広告は、デジタル広告に押されつつも、依然として年間600億ドル(約9.2兆円。1ドル=153円換算)規模という巨大な市場となっている。この市場を支える視聴率データの最大手が「人工知能(AI)時代に古びたテクノロジーを使っているのではないか」と疑問を投げかけられている。

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業界の生存がかかる選択──VideoAmpのCEOが変革を訴え

VideoAmp(ビデオアンプ)のピーター・リグオリCEOは、広告・メディア業界の幹部を前に、業界大手ニールセンではなく自社のサービスをテレビ視聴率の測定に使うべき理由を説いた。9月中旬、ニューヨークで開かれたカンファレンスでのことだ。その選択は、テレビの広告収入が急減する現状を踏まえれば、単なる好みの問題にとどまらないとも指摘した。

リグオリは「現在問われているのは、あなたたちが生き残れるかどうかだ」と語り、自身の背後に恐竜の化石の写真を映し出した。「変化を主導できるのはあなたたちだ。私たちは一緒にそれを成し遂げられる。もし行動しなければ、そのうち博物館で“過去の存在”として再会することになる」。

ニールセンが市場の約9割を握るなか、VideoAmpなどが浸食

ニールセンは70年以上にわたり、テレビ視聴データの測定でほぼ独占的な地位を保ってきた。業界で「カレンシー(通貨)」と呼ばれるそのデータは、毎年600億ドル(約9.2兆円)を超えるテレビ広告取引の基盤となり、数十億ドル(数千億円)規模の番組編成の判断にも使われている。だが、ニールセンが市場の約9割を握るなか、2014年創業のVideoAmp、1999年創業のComscore(コムスコア)、2012年創業のiSpot.tv(アイスポットtv)といった企業が着実にその牙城を崩しつつある。

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VideoAmpの取引額が拡大、約459億円から約4590億円へ

過去3年間で、VideoAmpのデータを基にした広告費は年間約3億ドル(約459億円)から30億ドル(約4590億円)へと約9倍に拡大し、その取引から手数料を得る同社の収益も1500万ドル(約23億円)から1億ドル(約153億円)超へと急増した。同社の企業価値は、2022年にエリオット・インベストメント・マネジメント率いる投資家集団によって160億ドル(約2.4兆円)で非公開化されたニールセンのわずか10分の1にとどまるが、それでもVideoAmpはニールセンに真正面から対抗する存在とみられている。

その先頭に立つリグオリは、2025年を通じてニールセンを挑発し続けてきた。65歳の彼は、自身の会社が「高コストで時代遅れ、しかも信頼性に欠ける」既存企業に代わる俊敏でテクノロジー主導の新たな選択肢として位置づけている。

ニールセンの「そろばん」に対し、VideoAmpは「AI」で戦う

ロサンゼルス拠点のVideoAmpは、大規模言語モデル(LLM)と機械学習を用いて、全米4000万世帯と6500万台のデバイスから得られる膨大なデータを解析している。ニールセンは、主に「パネル方式」に依存しており、米国の一般世帯を代表するとされる4万2000世帯をモニタリングして全米の視聴傾向を推計していると、リグオリは指摘する。

「はっきりしてきたのは、ニールセンがAI時代の戦いに“そろばん”を持ち込んでいることだ」とリグオリはフォーブスに語った。「彼らは馬車を前に進ませようと必死に鞭を振るっているが、私たちはフェラーリを時速200マイルで走らせる方法を考えている」。

年間売上約5355億円のニールセンは進化を強調、新方式を正式導入

これに対し、ニールセンの広報担当者は声明で「当社はオープンで透明性の高いエコシステムのもとで、毎日100テラバイトを超えるデータを提供している」と述べ、2025年に入って複数の顧客と新たに拡大契約を結んだことを明らかにした。視聴率測定サービスによる年間売上が35億ドル(約5355億円)を超える同社は、自らの進化を強調している。たとえば、広告の到達範囲だけでなく効果そのものを測定するための「Outcomes Marketplace」を7月に立ち上げ、1月には4500万世帯・7500万台のデバイスを直接計測に組み込む「パネル+ビッグデータ」方式を正式に導入した。

新方式が混乱と不満を招き、業界団体VABは旧方式を要求

しかし、この新たな仕組みの導入は、ニールセンの競合を沈黙させるどころか、むしろ火に油を注ぐ結果となった。メディア企業や広告代理店からは、視聴率の変動やこれまでにない視聴者数の落ち込み、新しい測定手法の不透明さなどが相次いで報告され、こうした混乱が予測を難しくし、5月のアップフロント(広告枠の先行一括販売)では契約交渉の遅れを招いた。

広告主約1万9000社を代表する団体「Video Advertising Bureau」は6月、懸念を伝えるため、マンハッタンのNBCユニバーサル本社の会議室でニールセンとの会談を求めた。テーブルを挟んで向かい合った26人のマーケティングおよび広告業界の幹部たちは、他の要望とともに「新システムとの比較のため、従来のパネル方式による測定データをもう1年間提供してほしい」と求めたが、ニールセンはこれを拒否した。

「パネル方式が実際の視聴者を正確に反映しているという確信はあまりなかったが、少なくとも仕組みは理解できていた」と、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーで広告販売・データ分析を統括するデービッド・ポーターは語る。「だが、新しいシステムは中身がまったく見えない」。

Video Advertising Bureauのショーン・カニンガムCEOは、ニールセンへの批判を強めている。「率直に言って、彼らの反応は傲慢で、無関心そのものだ。データの不安定さと予測不能さに対する深い不満が業界全体に広がっている」と彼は語った。

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翻訳=上田裕資

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