ニールセンによる新たな勢力への訴訟、契約による強い制限
ニールセンはVideoAmpのような勢力を、競合というよりむしろ「不法侵入者」とみなす姿勢を取ってきた。この数年で同社は、TVision Insights(ティービジョン・インサイツ)、HyphaMetrics(ハイファメトリクス)、ACRCloud(ACRクラウド)、そしてVideoAmpに対して複数の特許侵害訴訟を起こしており、最初の訴訟が棄却されたわずか1カ月後の4月には、VideoAmpを相手取って2件目の訴訟を提起した。2023年には、広告主とパブリッシャーが合同で「ジョイント・インダストリー・コミッティー(JIC)」を設立し、MRCよりも迅速に新しいクロスプラットフォーム型測定サービスを認証しようとしたが、ニールセンはこの枠組みへの参加を全面的に拒否した。
広告の買い手側で長年ニールセンとの契約交渉を経験してきた関係者の1人は、そのやり方を「マフィアと取引しているようだ」と評する。同社のマスターサービス契約は150ページを超えることもあり、その拘束力の強さが知られている。契約条項の中には、出版社や広告代理店がニールセンのデータと他社のデータを並べて比較する資料を作成することさえ禁じるものもあるという。
「もしニールセンのデータが本当に正確なら、他社と並べて比較されても何も失うものはないはずだ」と語るのは、年間3億ドル(約459億円)規模のローカルテレビ市場でシェアを伸ばす競合コムスコアの計測部門トップ、フランク・フリードマンだ。「完璧だというなら、比較されても勝てるはずだ」。
ニールセンの高額な年間契約に対し、VideoAmpは安価な料金体系を提示
競合各社はビジネスモデルの面でもニールセンとは異なっている。ニールセンは多額の前払いサービス料を徴収する方式を取っており、ディズニー、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー、パラマウントといったメディア業界最大手は、広告収入が減少しても契約額は自動的に上昇する仕組みになっている複数年契約の一環として年間最大3億ドル(約459億円)を支払っている。
VideoAmpは導入時に年間100万〜300万ドル(約1億5000万~約4億6000万円)ほどの最低保証料を設定し、その後は「メーター」を稼働させるように、同社のデータを基に取引額の一定割合を徴収している。リグオリによれば、大手のメディア企業であっても、同社のサービス費用はニールセンの約3分の1に収まるという。
2024年10月、VideoAmpはその実力を示す機会を得た。パラマウントはニールセンとの契約をめぐる交渉が約4カ月に及ぶあいだ、同社のデータ利用を停止した。当時共同CEOを務めていたジョージ・チークスは、特定のネットワークに対するニールセンの料金が、そのネットワークの広告収入を上回っていたと明かしている。交渉期間中、パラマウントは主にVideoAmpを使って広告取引を行い、大きな実証機会を与えた。
しかし2025年2月、パラマウントはニールセンと再び複数年契約を締結。同社は今後について「どの測定サービスを使うかにこだわらない」立場を示した。
このスタンスは、業界全体に広がっている。多くの大手メディア企業がニールセン、VideoAmp、Comscoreを併用しており、どのデータを基に取引するかの選択は広告の買い手側に委ねられている。
広告代理店が変化を拒み続け、ニールセンとの契約を継続
ただし、ニールセンへの不満が公に語られるものの、実際に変化を拒んできたのは広告代理店の側だ。背景には、測定システムの切り替えに高額なコストがかかることや、長年にわたってニールセンのデータを基に構築してきた広告プランを新たな指標体系に置き換える難しさがあるとみられる。過去数年の間に、世界大手広告グループ7社のうち6社がニールセンと新たに複数年契約を締結しており、パラマウントやワーナー・ブラザース・ディスカバリーといったメディア企業も同様の動きを見せている。
また、市場が競争を促しているように見えても、それが本当に「乗り換え」を目的としているのかは疑わしい。より有利な料金や高い透明性をニールセンから引き出すための駆け引きにすぎない可能性もある。ニールセンは圧倒的な先行優位を持っており、競合が同社を市場の首位から引きずり下ろすよりも早く、同社が技術格差を埋めてしまう公算が大きい。
ストリーミング時代は、コネクテッドTVの測定技術が鍵
それでも、米国が急速にストリーミング主流の時代へと突き進むなか、チャンスは拡大している。年齢・性別といった従来型のデモグラフィック指標が姿を消し、より高度な視聴者分析が重視されるようになれば、消費者がプラットフォームをまたいで移動する様子を追跡できるようになる。それは広告業界にとって「究極の到達点」といえる。その未来において、テクノロジーに精通したデータ解析企業の重要性はこれまでになく高まっている。
「従来のリニア放送の視聴は急速に減少しているが、その代わりにコネクテッドTV(Connected TV)の視聴が拡大しており、テレビ全体の市場はむしろ成長している」と語るのは、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーで広告販売を統括するデービッド・ポーターだ。同社は7月にVideoAmp、9月にニールセンとそれぞれ新たな契約を結んでいる(編注:コネクテッドTVは、インターネット前提の動画視聴デバイスのこと。Fire TV StickやGoogle Chromecastといったストリーミング端末、スマートTV、家庭用ゲーム機などを指す。“画面がテレビではない”スマホ・タブレット・パソコンは別カテゴリーとして扱われる)。
「コネクテッドTVはビッグデータとテクノロジーを基盤としている。プラットフォームを横断して視聴を測定できる仕組みこそが、率直に言ってVideoAmpの最も得意とする分野だ。私たちもそこに向かっている」と彼は語った。


