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2025.11.09 13:00

米TV視聴率調査の王者ニールセンを脅かす、「AI活用」VideoAmpの台頭

Taljat David / Shutterstock.com

VideoAmpを創業し、ニールセンと正面から競合する方向へ

VideoAmpは、こうしたニールセンを巡る混乱が起きる以前から業界に参入していた。2014年に当時23歳だったロス・マクレイが設立した同社は、広告主がキャンペーンの効果を測定できるよう、広告の到達範囲や購買転換率を定量化するツールを提供してきた。マクレイはその実績により、2016年のフォーブス「30 Under 30」(マーケティング&広告部門)にも選出されている。

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2021年までに同社の年間換算売上高は約8000万ドル(約122億円)のペースに達し、ニールセンと正面から競合する方向へと舵を切った。同年10月には2億7500万ドル(約421億円)を調達し、2023年8月には評価額15億5000万ドル(約2372億円)で1億5000万ドル(約230億円)の追加出資を受けている。

2019年からVideoAmpの取締役を務めてきたリグオリは、広告業界の両サイドで培った豊富な経験から、同社の転換を主導する最適な人物とみられてきた。彼は、広告の買い手としては、広告代理店大手サーチ&サーチでプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の製品を売り込んだ経験があり、売り手側ではFXネットワークスのCEOやフォックスのエンターテインメント部門会長を歴任している。彼は、2024年にマクレイに代わってエグゼクティブ・チェアマンに就任し、7月にCEOの座に就いた。こうした経歴を踏まえ、リグオリは自らを「テレビ業界のために尽くす改革者」として位置づけている。

測定サービスは本来、安定性と予測可能性で評価されるうえ、VideoAmpはまだメディア・レーティング・カウンシル(MRC)の認定を受けていない(新規の承認には数年かかる)。それでも、VideoAmpの計測ではニールセンより多い視聴者数が出ることが少なくない。

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「ニールセンに依存し続けることで、番組の本当の人気が過小に見積もられ、視聴者に不利益が生じている」とリグオリは語る。

7月に発表した“コルベア”番組の視聴者数、VideoAmpによる計測値は最大3倍に

リグオリがよく引き合いに出す例が、CBSが7月に発表した『レイトショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』の終了だ。番組は2026年に幕を閉じる予定で、同局は制作費と広告収入の差額が4000万ドル(約61億円)の赤字に達していたことを理由に挙げた。だがVideoAmpのデータによれば、25〜54歳の視聴者層におけるコルベアの番組の視聴者数は、ニールセンの計測値の2.5倍から3倍に達していた。もしそれが正しければ、赤字は十分に埋め合わせできた計算になる。

リグオリもその数字が信じがたいことは承知しているが、次のように問いかける。「コルベアの全視聴者のうち、25〜54歳がわずか10%しかいなかったというニールセンの推計と、約3分の1がこの層だったというVideoAmpの推定──どちらのほうが現実的だと思うか?」。

VideoAmpの視聴データの提供元は、コムキャスト、ディッシュ、ティーボ、フロンティア、ビジオに加えTVisionのパネルデータで構成されており、これはニールセンが利用しているデータ源とほぼ同じだ。

両者の違いは測定手法にある。VideoAmpは、AI技術に特化したテクノロジー企業として10年間にわたり蓄積してきたノウハウをもとに、膨大なデータポイントを解析し、単に「何人が見たか」だけでなく、「誰が」「ほかに何を見ているのか」までを把握できる点で優れていると考えている。これは、ウェブサイトがクッキーを使ってユーザーの行動を追跡する仕組みに近い。

リグオリの細かな批判はさておき、業界でニールセンへの不満が表面化したのは比較的最近のことだ。長年にわたり、ニールセンの視聴率データは公共インフラに近い存在とみなされ、その正確性はほぼ疑われることがなかった。

パンデミックで露呈した、ニールセンの測定体制の脆弱性

新型コロナウイルスのパンデミック下で、ニールセンは視聴測定機器の保守に必要な世帯訪問ができず、パネル全体の4分の1に相当する約1万世帯がオフラインとなった。その結果、縮小したパネルは全国の視聴傾向を反映できなくなり、視聴率は実態とかけ離れた低い数値を示すようになった。同社はこの時期、初めて自宅外での視聴──バーやジム、空港などでのテレビ視聴──も集計に加えていたが、それでも視聴率は実態より低く出ていた。

2020年のスポーツ中継の視聴率は急落した。ニールセンのデータによれば、北米プロアイスホッケーリーグ(NHL)のスタンリーカップ決勝は61%減、全米オープン・テニスは45%減、2021年のアカデミー賞授賞式も59%の落ち込みを記録した。視聴率の常連であるNFLのレギュラーシーズンでさえ、視聴者数(視聴数)が7%減少した。しかもこれらの低下は、外出制限で人々が自宅にこもり、音楽や動画のストリーミングサービスへの利用がかつてないほど急増していた時期に起きた。

2021年、メディア・レーティング・カウンシル(MRC)は、ニールセンの「信頼できる測定機関」としての認定を一時停止した。ただしMRCの承認には法的拘束力がないため、広告の売買はそのままニールセンのデータに基づいて続けられ、同社は19カ月後に認定を回復した。それでも、業界との間に生じた信頼の亀裂が、新たな挑戦者たちに活路を与えることになった。

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翻訳=上田裕資

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