大谷を強くしたのは「S&C」だった?
「Strength and Conditioning Coach」(ストレングス & コンディショニング コーチ、以下 S&C)は、アメリカのスポーツ界では立派な職業のうちの一つであるが、日本では馴染みのそれではないであろう。
簡単に説明するなら、競技の向上のベースとなるウェイトトレーニングを専門に担当するコーチである。野球を例にとって説明する。バッティングや走塁、投球術、試合運びや選手起用等はチームの監督やコーチ達が担当する、そしてそれらの技術面のベースになるとも言える筋力や瞬発力等を鍛え上げていくのがS&Cコーチの役割である。アメリカのハイスクールそしてカレッジでは、高い確率で彼らの存在が確認されるであろう。競技レベルが高ければ高いほど、この分業制での選手の成長やシーズン中のコンディションのメンテナンスがスタンダードなオペレーションになっている。
知り合いのメジャーリーグのコーチングスタッフにヒアリングしたところ、メジャーリーグでも多分に漏れず、S&Cコーチ陣の存在はなくてはならないものであるそうだ。
その友人の所属するチームでは、シーズン中は野手は3日に一度S&Cコーチ指導の下の組織的なウエイトトレーニングが義務付けられているそうだ。
ベテラン大物選手や投手は別メニューであるそうだが、オフシーズンもシーズン中も、ここアメリカのトップレベルのスポーツでは、トレーニングがコンディショニング維持やパフォーマンス向上の大事なファクターとなることは紛れもない事実である。
我々スタンフォード大学のアメフト部も同様に、オフシーズンは身体を大きくする重めのウェイトトレーニング、シーズン中はコンディションを整えるためのウェイトトレーニングを定期的に行う。選手と過ごす時間が多い彼らの存在は、オフィスは違えどチームビルディングに欠かせない存在なのである。
さて、ここで大谷選手のメジャーに行ってからの、年度別のホームラン数を見てみよう。
2018年 – 22本
2019 年– 18本
2020年 – 7本
2021年– 46本
2022年 – 34本
2023年 – 44本
2024年 – 54本
2025年 – 55本
彼はアメリカに来てから大きく成長している事が見て取れる。個人的な意見であるが、そのホームランの数のベースとなるであろうパワーや身体のキレを司るコアの強さは、S&Cコーチを中心とするアメリカの組織立ったウエイトトレーニングの仕組みとそれを元にした彼の不断の努力やルーティーンから生まれたものなのであろう。


