AI(人工知能)とML(機械学習)の急速な発展によって、世界のデータセンターが極度に圧迫されるなか、宇宙にデータセンターを構築するプロジェクトが加速している。
エヌビディアはAIに特化した超高性能GPU「H100」を、衛星「スタークラウド1」に搭載して11月2日に打ち上げた。また、米宇宙開発企業アクシオム・スペースは、コンパクトなデータセンター衛星「ODC 1」と「ODC 2」を2025年末までに打ち上げる予定だ。ジェフ・ベゾス氏も軌道上データセンター(ODC:Orbital Data Center)に着手しており、ブルーオリジンのプラットフォーム衛星「ブルーリング」の打ち上げを、2026年春以降に予定している。
地球を周回する軌道上にデータセンターを構築すれば、衛星などが取得する膨大なデータをAIによってリアルタイムに解析し、必要なデータだけを即時的に受け取れる。そのデータを光通信によって衛星間でやり取りすれば、どこでもデータが即時入手できると同時に、地上インフラを経由しないためサイバーセキュリティも強化できる。
地上のデータセンターでは莫大な電力と冷却水が必要とされるが、宇宙で太陽光エネルギーを活用すればコストを大幅に圧縮でき、地球の環境負荷も低減する。さまざまな制約を解決する軌道上データセンターは次世代インフラの最有力候補といえ、各社の試みが急ピッチで進むいま、その実現可能性が飛躍的に高まっている。
縦横4kmの軌道上データセンター
10月15日、エヌビディアが自社ウェブサイトのブログを更新すると、瞬く間に世界に拡散された。それによって、同社のGPU「H100」を小型衛星「スタークラウド1」(質量60kg)に搭載し、ファルコン9ロケットで11月2日に打ち上げることが告知された。「H100」は従来のGPUの30倍の言語処理能力を持つとされるが、これを低軌道(高度2000km以下の地球周回軌道)に打ち上げることで、既存の宇宙機よりも「100倍強力なGPUコンピューティング」を目指すという。今回の実証テストではGoogleのオープン小規模AI言語モデル「Gemma」を実行する。
地上のデータセンターは莫大な電力を消費する。一般的なデータセンターの出力が5~10MW(メガワット)であるのに対し、典型的なAIデータセンターは100MWにおよぶ。Meta(米国)がルイジアナ州に建設予定の史上最大のデータセンターではその20倍の2GW(ギガワット)が想定され、その稼働には女川原発2号機(定格出力825MW)の2.4基分相当の電力が必要とされる。こうした大電力には莫大なコストがかかるが、常に太陽光が当たる「ドーンダスク軌道」(太陽同期軌道の一種)などに太陽発電パネルを配置すれば、大気で減衰しない太陽エネルギーを存分に活用でき、電力コストを理論上ほぼゼロにできる。



