とはいえ、欧州の中道派勢力が外部勢力による民主主義や制度の破壊について、まだ真剣に受け止めていない兆候も多く認められる。たとえば、英国の大学には中国人留学生が依然として何万人と在籍しているし、フランス南部やウィーン、イタリアの一部地域には裕福なロシア人が多く住んでいる。EUの行政機関である欧州委員会は、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相による妨害行動に甘すぎる。国単位で見れば、欧州の一部の国は動きが鈍く、なかでもスペインとアイルランドはいつ「現実から襲われ」てもおかしくない国として目立っている。
俗にブライ艦長(編集注:18世紀末、南太平洋を航行していた英軍艦バウンティ号で起こった乗組員らの反乱で追放された艦長)に帰せられる「懲罰は士気が上がるまで続く」という格言に倣い、欧州は対外関係の面で、また、民主主義を守るために必要な手段に関して、より“絶対主義的”な姿勢を取らざるを得なくなるだろう。
そこで浮上する問いはこうなる。欧州はいままさにネオコン・モーメントの瀬戸際にあるのか。もしそうだとすれば、その瞬間はどのような形として現れそうか。
その答えについて考えるにはまず、欧州に必要な一連の行動を列挙してみるとよいかもしれない。▽ハンガリーのような反抗的な加盟国をEUから排除できる仕組みを導入する▽移民政策をさらに厳格化する▽ロシアに対する「影の戦争」を本格化させる▽域内の資本市場を統合する「貯蓄・投資同盟」構想を一段と積極的に推し進める(これは難しいかもしれないが)──といったものだ。
より良いシグナルになるのは“心構え”の変化だろう。現状では、EUと英国はロシアのような国からの侵犯や挑発、あるいは米国大統領のソーシャルメディア投稿のひとつひとつに振り回されてしまっている。欧州は自らのテンポで行動し、可能な分野では強気に出る場面を増やす必要がある。また、欧州を地政学的に無力で経済的にも弱い存在として描きがちな、国際的なナラティブ(物語)も変えていくべきだ。


