サイエンス

2025.11.02 17:00

コロンブスの船で新大陸に侵入した、意外な「3つの生物」

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2. ミミズ

ミミズは、ネズミほど不吉な想像を呼び起こす存在ではない。ちょっとした不快感は覚えるものの、それ以外は、取るに足らない生き物としか思わないだろう。ところが土壌生態学の世界においては、ミミズは決してそれで終わる存在ではない。

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科学ジャーナリストのチャールズ・C・マンは名著『1493: Uncovering the New World Columbus Created(1493年:コロンブスがつくり出した新世界を解き明かす:未邦訳)』で、ミミズの影響について詳しく述べている。北米大陸のほぼ大半の森林は、それまでの何千年にもわたり、ミミズの働きによる影響を一切受けることなく進化してきた。それは、約1万年前に終わった最終氷期が大きく関係していると考えられている。最終氷期の間、北米大陸の広い部分が氷で覆われており、ミミズは存在できなかったのだ。

ところが、欧州から入植者がやって来るようになると、船に積まれていた土壌やバラストを介して、北米の生態系にミミズが入り込んだ。

ミミズは、誰にも気づかれず、船のいたるところに潜んで移動できた。植物の根鉢やバラスト、ベッドや家畜のエサに使われた藁の中にいたのだ。そして、船が港に到着して入植者が積み荷を降ろすと、ミミズは林床などいろいろなところに分散していき、そのまま住み着いた。

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北米に入り込むや否や、ミミズは森の土壌の力学を変え始めた。腐熟した枯れ葉や枝などを食べ、土の分解を加速させ、土壌に空気を含ませ、栄養循環の本質を変えていった。森林環境は、東海岸と北部の地域を中心に、このミミズの働きに依存する形で進化した。

かくして、何千年と完璧な安定を保ってきた森林環境は、地中で働く新たな生き物ミミズによって変化を余儀なくされた。在来の植物群落は、厚く積み重なった落ち葉の層と、緩やかな栄養循環に特化して適応してきたが、ミミズの侵入後は、落ち葉の層がずっと薄くなり、根の成長スピードが速くなったことで、生態系の多様性は低下していった。

別の言い方をすれば、ミミズは基本的に、北米の生態系を再構築した。そしてその影響は、森の地面に生息するクモやムカデといった節足動物や、植物の定着、土壌炭素動態などに連鎖的に広がっていった。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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