日本で羊肉の消費が促進された背景
前出の菊池さんの著書によれば、日本国内の羊肉を提供する飲食店の数は増えているという。あるグルメサイトで調べたところ、<ジンギスカン、ラムを扱っている焼肉などのキーワードが含まれる店の数は、2014年は366店だったが、2021年には913店>だった。
都道府県別にみると、<1位の北海道324店に対し、2位東京179店、3位神奈川36店、千葉32店、大阪32店>と続くが、<関東全部を合わせると305店>となり、特に首都圏での増加が顕著なようだ。
筆者は4年前に書いたコラム「『羊食』はブームから定番へ ニューウェーブ中華店の増加が背景に」のなかで、日本における羊肉の消費が促進された背景として、菊池さんのコメントを借りて次の3つの点を挙げている。
1つ目は、食肉の保存技術の進歩で、羊肉独特の臭みが抑えられるようになったこと。かつては「羊肉は臭い」というイメージを持つ人も多かったが、輸入肉でありながらも鮮度が高く、国産の羊肉との味の違いに食通の人が気づくようになった。
2つ目は、日本人が多様な肉の味わいを楽しむようになったこと。しばらく寝かせて旨味を増す熟成肉や狩猟で捕獲した野生鳥獣のジビエなども知られるようになり、羊肉もその流れで受け入れられるようになった。
3つ目は、羊肉の料理を出す海外系のレストランが増えたこと。もともとインドやネパールの料理や欧米各国料理の主要な食材だったが、最近では同じく羊肉を供する中央アジア系のウズベキスタン料理や新疆ウイグル料理、モンゴル料理などのエスニック系の店も増えているからだ。
菊池さんも、個人的な見解としての1つの推測と断りつつ、こう話す。
「多くの日本人にとって羊料理といえば、圧倒的にジンギスカンで、次いでラムチョップでしょう。でも、実はいま日本でいちばん気軽に羊肉を提供しているのはガチ中華の店だといえます。羊肉料理の専門店でなくても、必ずメニューに入っています。しかも、ガチ中華の店では安価に羊肉が味わえる。ガチ中華を通じて羊肉を食べる経験が広がっているのではないか」
確かに、ガチ中華の店で羊肉を出すのは、羊が多く生育する中国北方の料理が一般的だが、中国国内の食の多様化の影響で、南方の料理を出す店でも、食材として羊肉を使うケースは増えていると思う。それが身近な食材としての羊肉に対する理解につながっている面があるかもしれない。


