近年、世界中で女性の政治リーダーが数多く誕生している中、先進国ではイタリアのジョルジャ・メローニ首相やフランス「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首のような保守や右派が目立ってきている。その先駆は言うまでもなく、1979年から1990年まで11年半に亘ってイギリスの首相を務めたマーガレット・サッチャーだろう。
サッチャーを信奉しているという高市早苗議員が自民党総裁に就任した時、イギリスの主要メディアは早速、彼女を”Japan’s Iron Lady”と紹介した。総裁選の党開票日の、目を射るようなブルーのスーツにパールのネックレスという装いは、明らかに往年のサッチャーを意識していたと思われる。
奇しくもマーガレット・サッチャー生誕100年の今年に高市氏が首相の座を得た今、ここでサッチャーを描いた作品を観直してみるのも一興、というわけで今回は、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(フィリダ・ロイド監督、2011、原題”Iron Lady”)を取り上げたい。
ちなみに「鉄の女」とは当初、反共主義を打ち出したサッチャー首相へのソ連国防機関紙による非難の文言だったが、本人は意外にもそれを気に入ってネーミングが定着したという。強気の外交政策を推し進めたサッチャーという女性政治家の、余裕と胆力を感じさせるエピソードだ。
本作の監督フィリダ・ロイドと主演のメリル・ストリープはヒット作『マンマ・ミーア!』でのコンビで、ストリープ以外のキャストはイギリス人俳優で固められている。リベラル派として知られる俳優に当てられた強硬な保守政治家という役柄やイギリス英語というハードルをストリープは悠々と克服し、あたかも往年のマーガレット・サッチャーが憑依したかのような演技で数々の主演女優賞に輝いた。この作品の見どころのほとんどは、40代から80代までのサッチャーになりきったメリル・ストリープの高い演技力と、晩年の老いを実にリアルに表現した特殊メイクによるものだと言っても過言ではない。



