経済・社会

2025.10.24 11:45

社会イノベーションの最先端の教養 第一回:社会イノベーションとは何か

VectorMine / Shutterstock.com

VectorMine / Shutterstock.com

「もう、誰かがなんとかしてくれる時代じゃない。」

advertisement

気候変動、格差、孤独、少子高齢化、財政赤字。今、私たちが直面する社会課題は、あまりに複雑で根深い。でもこれらを、「税金を払っているのだから、そんなの行政がちゃんと解決してよ」と言っていては、もう追いつかない。ここで必要になるのが、個々人のリーダーシップで“仕組みそのものを変える”力――社会イノベーションです。

といっても、「聞いたことはあるけど、なんだかよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。本連載では、この“なんだかよく分からない”を“教養”へと変えていきたいと思います。

第一回では、「社会イノベーションとは何か」、そして「なぜ今、それが欠かせないのか」を、世界の知見と実践を交えてご紹介します。

advertisement

社会イノベーションって、何?

「社会イノベーション(Social Innovation)」とは、ただ新しい技術やビジネス、仕組みが生まれることではありません。

スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー(SSIR)は、このように定義しています。

「社会の課題を解決する新しいアプローチであり、従来よりも効果的・効率的・公平・持続可能な方法 」

テクノロジーやビジネスに限らず、教育、福祉、文化、地域社会といったあらゆる分野で、「みんなにとっての利益=共通善(common good)」を生み出すことが社会イノベーションなのです。

ヒントは“バランスの崩れ”にある

ではなぜ、社会イノベーションがこれほどまでに重要と見なされているのでしょうか?
世界的に著名な経営学者ヘンリー・ミンツバーグは、著書『Rebalancing Society(邦題:私たちはいつまで資本主義に従うのか)』 において、社会とは、「3つのセクターのバランス」で成り立っていると捉えています。

公的セクター(政府)
私的セクター(企業)
多元セクター(市民社会・NPO・地域コミュニティ)

この“3本足”がバランスよく機能していれば、社会は安定し、健やかに前進していく。けれども今、そのバランスは明らかに崩れつつあります。市場の論理が強くなりすぎる反面、コミュニティの力が衰えているのです。

SNSやデジタルテクノロジーの発達で「つながっている」はずなのに、人と人の信頼や地域のつながりはどこか空虚になってしまっている。そんな感覚、誰しもが一度は味わったことがあるのではないでしょうか?

ミンツバーグはこのバランスの修復には、3つのセクターを対峙的に独立してみるということではなく、「一人ひとりが複数のセクターに属する存在であるという自覚を持つこと」が鍵だといいます。特に私たちは自らが多元セクターの住人であるという自覚を持つことが大切なのです。

あなたが企業人でも公務員でも学生でも、「社会に関わる一員である」という視点さえあれば、個人のリーダーシップでどこにいても社会イノベーションを担うことができるのです。また、そういう人たちが組織の境界線を越えて、連携して社会イノベーションを生み出すことがとても増えてきています。こういう人たちのことを「Boundary Spanner(バウンダリー・スパナー・境界線をつなぐ人たち)」と呼んだりします。今の時代、社会問題の解決は行政やNPOなどだけの役割ではないのです。すべての個人や法人が、自らが生み出せる「社会イノベーション」を考えて行動する。そしてその発想のある人たちが、組織人でありながら、組織の枠を超えてつながり、社会のリバランス化を生み出す。ある種、”3本の足“が溶けてつながる感覚でしょうか。こうした世界観が生まれてきているのです。

次ページ > なぜ“自分ごと”としての理解が必要なのか?

文=鵜尾 雅隆(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー・ジャパン編集長)

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事