Adobe Premiere Proのタイムライン上で、ざらついた音声のトラックを選択し、「スピーチを強調」機能を呼び出す。すると、数秒の沈黙が訪れる。プログレスバーがゆっくりと伸びる間、ユーザーはその手を止める。コーヒーを飲むには短すぎ、次の作業に移るには中途半端な──そんな気まずい「間」は、AIを活用したアプリケーションではよくある光景だ。
しかし、M5搭載MacBook Proでは、この「間」がすっかり消え失せていた。
クリックした瞬間、音声波形がほぼリアルタイムで変化し始める。編集の流れが途切れない。思考が止まらない。ほんの数秒の差ではあるが、AI機能が数多く搭載され始めているクリエイティブツールにおいて、この違いはコンピュータそのものの使いやすさを大きく変えるものになる。
無論、これまでもM4 Maxなどの高額な高性能デバイスなら、同じようにすばやい処理が期待できたが、ここで評価しているのはアップルが開発するパーソナルコンピュータ向けの“スタンダード”版であるM5だ。
2025年10月に、14インチMacBook Pro、iPad Pro、Apple Vision Proという三つのモデルにM5搭載モデルが同時発表されたが、そのいずれもが（Vision Proのストラップを除き）機構設計はまったく同じ。違いはM5の搭載だけといっていい。
しかし、このM5は、かつてインテルから自社チップ（M1）への移行を一気に進めたときと同様の意味を持っているようだ。オンデバイスAIがアプリケーションに組み込まれることが当たり前の時代における、パフォーマンスとバッテリー効率を最適化した、新しい時代のSoCの時代が始まったのだ。
M1から5年：電力効率革命の次に来るもの
M5を搭載した14インチMacBook Pro、iPad Pro、Apple Vision Proの実機を短期間ながら試用しているが、ベンチマークテストが良好であることはいうまでもない。すでにさまざまな情報が出ている通り、そしてアップル自身が訴求している通りだ。
個々のインプレッションは別途お伝えするが、思い起こしたのは2020年11月、M1チップが登場した時のことだ。
M1はインテルアーキテクチャからの脱却は単なるプロセッサの交代ではなく、パフォーマンスと消費電力のトレードオフという長年の制約からの解放を意味していた。それ以降、ファンレス化したMacBook Airは驚くほど快適な性能とバッテリー持続時間を両立させ、それが業界のスタンダードとなった。
その後、インテルも慌ててモバイル向けプロセッサの設計を見直し、AMDは電力効率に注力し、クアルコムはスマートフォンの知見を活かしてPC市場に参入したのはご存知のとおりだ。
あれから5年、その後継モデルが粛々と続いていたが、M5の位置づけはやや異なる。
