「400年前から桃谷という名字は続いてきたんです」
創業140周年、薬種商の時代にまで遡れば約400年の歴史を誇る老舗化粧品メーカー・桃谷順天館。
その現代表・桃谷社長は、日本が世界に誇る「長寿企業」の象徴的存在だ。
世界の100年以上続く企業のうち半数以上が日本に集中するが、400年という年月を超える企業は極めて稀である。だが、その長い歴史の中には、幾度もの試練と再生の物語があった。
広告戦略の成功と、その裏に潜んでいたリスク
かつて同社は、吉永小百合を起用したテレビCMなど、大胆な広告戦略を展開。
「明色化粧品」として全国的な人気を博し、当時小売の巨人だったダイエーとの提携も実現した。スーパー店頭では“目玉商品”として販売され、売上は急伸。明色ブランドは一躍、時代の象徴となった。
しかし、その成功は長くは続かなかった。
ダイエーなどの量販店での値下げ販売が常態化し、薄利多売構造の中で広告費だけが膨らむ。
一時的に上がった業績はやがて失速し、赤字転落。経営は危機的状況に陥った。
銀行介入の時代、そして再生への一歩
業績悪化を受け、銀行主導による再建が進められた。
その最中、現社長・桃谷氏は「桃谷順天館を立て直してほしい」と当時の役員から依頼を受け、入社を決意する。
入社当時の会社は、売上を大きく上回る債務を抱え、給与の支払いにも苦慮するほどの最悪期だったという。
そんな中、桃谷氏は倉庫に眠っていた一冊の古文書に出会う。
それが、創業者・桃谷政次郎の理念を後継者たちが記した『桃谷政次郎翁傳』であった。
そこに書かれていたのは——
「天に順い、人々に奉仕する」
すなわち「順天」という創業精神。
桃谷氏はこの理念を経営陣と共に読み解き、原点回帰を誓った。
理念の再発見こそが、再生への第一歩となったのだ。
経営改革とV字回復──理念を実践へ
桃谷社長は「順天」の精神を現代経営に落とし込み、年功序列を廃止し、給与体系の見直し・年俸制導入・グループ経営の再構築など抜本的改革を断行した。
組織の活力を取り戻し、再び成長軌道に乗せた。
現場と研究所の給与バランスを是正したことで、社員の士気が向上。
遠方からでも働きたいという職人が現れ、若手人材も次々と参画。
「理念」と「仕組み」を両輪で動かすことで、企業はV字回復を遂げた。
次世代へのバトン──グローバルリーダー登場
再建を果たした桃谷社長は、次の成長ステージとして、グループの主力会社「コスメテックジャパン」の経営を、中国出身の若き経営者・伊勢社長に託した。
「私の時代と今では背景が全く違う。これからは“誠実と信頼”で勝負する時代です」
桃谷社長は、時代の変化を冷静に見極めながら、次世代が躍動できる舞台を整えた。
伝統を継承しながらも、革新を恐れない。それが桃谷流の“次世代経営”である。



