リーダーシップ

2025.10.28 08:45

拙速な改革はシステムを壊す リーダーが本当に「聴く」べき声とは

前編「NPO理事長が語る新時代の組織論、公共に資するリーダーシップの要件」では、NPO法人SALASUSUの理事長である筆者が、自身の挫折経験から「グレートリーダー」像を手放し、仲間と弱さを分かち合う「システムリーダーシップ」と、自らの内面と向き合う「オーセンティックリーダーシップ」に目覚めるまでの過程を語った。後編では、リーダーシップに必要な3つ目の要素として、他者への深い理解に不可欠な「声なき声を聴く専門性」について論じる。多様な人々が関わる「公共」の領域で、拙速な改革はなぜ危険なのか。カンボジアの教育現場での実践から見えてきた、持続可能な変革を生み出すための対話の技術とは。

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3. 他者の声なき声を聴く専門性

あらためて「公共」を考えるとき、その言葉が持つ時間的空間的広がりと、そこにいる人々の多様性に真摯に学び続けることが欠かせない。公共に資するリーダーシップの最後の要素として、「他者の声なき声を聴く専門性」を挙げようと思う。

どんな人も、自分が生きてきたたった1つの人生の中で、限られた経路に依存して世界を解釈し、他人を理解しようとしてしまう。「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションである」と言ったのはアインシュタインだと言われているが、まさに訓練なく他者への理解を深めることは容易ではない。

私は、教育現場で大事にされている「声なき声を聴き続ける」という教師の営みにヒントがあると考えている。熟練の教師は教室の中において、子どもたちの発言だけではなく、その表情や身体の動き、子どもたち同士の関係性、今日の教室の状況だけではなく、これまでの学級の営み、子どもの特性、発達段階など様々なことを総合して子どもの様子を見ながら授業を巧みに組み替えていると言われている。子どもを見る、聴くということに関してとてつもない専門性を持っているのだ。

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としたとき、教師だけでなく、公共の改革に挑もうとする私たちこそ、この他者が持つ声にならない声を聴く不断の努力を続けなくてはいけないのではないか。私たちは活動の中で、教師の方々に、子どもたちを丁寧に観察しその後同僚と対話する「授業研究」という営みを中心に置いている。

授業研究は150年来日本の公教育の教師の質を支えてきた営みで、具体的には同僚の教師の授業を見学し、その後対話をし、学び合っていくという活動である。現在では様々な形式の授業研究があるが、私たちが主にカンボジアで行っているのは、「同僚の教師ではなく、子どもの学ぶ姿から学ぼうとすること」「授業への批判やアドバイスを禁止し、子どもについて同僚と対話をすることで教師という専門家の共同体を作ろうとすること」を目的とした授業研究である。

それは子どもが一人の人間としてどう学ぶか学ばないかということを環境の中で、全ての子ども一人一人が「合理的に」意志決定していると信じているからこそ、その瞬間何が起きて学べるのか学べないのかということについて、同僚の授業の中での子どもたちの観察と対話の中で専門性を磨いていくしかないためだ。ケースカンファレンスに挑む医者のように。

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