米政府元当局者は「問題は、発言のぶれにある。米大統領の発言は重く、世界の情勢に影響を与えるからだ。私はここまで発言が軽い大統領を過去に見たことがない」と話す。トランプ氏の「トマホーク発言」はプーチン氏の出方を見るためのカードだったという指摘もある。ただ、トマホークがロシアに決定的なダメージを与えられないのであれば、カードにはならない。ロシア自身、ウクライナ東部への進撃速度が鈍り、国内エネルギー価格も上昇してはいる。ただ、中国がロシアを支える限り、継戦能力が極端に低下することはないだろう。複数の元当局者や専門家は、現在のロシアが置かれた状況について、「中東和平を実現させた際の、イスラム組織ハマスのような追い詰められた状況にはない」と口をそろえる。
日本外務省の元幹部は9月末の時点で、トランプ政権のトマホーク供与発言について「8月のアラスカ会談などでプーチンから痛い目に遭った腹いせだろう。すぐに発言がぶれる可能性が高い」と予測していた。トランプ氏は官僚の口出しを嫌い、米国家安全保障会議(NSC)のスタッフを3割以上削減した模様だ。5月に解任したマイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の後任もまだ決まっていない。上述の米政府元当局者は「兼務しているルビオ(国務長官)がトランプ氏の言いなりなので、後任を置かなくていいと考えているのだろう」と話す。トランプ氏とプーチン氏は今月中にもハンガリー・ブダペストで再び会談するが、「見通しは明るくない」(元当局者)という。
この米政府元当局者の言葉を借りれば、トランプ政権を支える安全保障スタッフの行動は「ちびっこのバスケットボール」だという。動いているボールにばかり気を取られ、マンツーマンやゾーンといったディフェンス戦術もおぼつかないからだ。「トランプ氏が中東と言えば中東を、ウクライナと言えばウクライナに集中する。人数も足りないし、トップに直言できる人もいないから、戦略的に動けない」(元当局者)。
トランプ氏は今月末に訪韓する。当然、米韓首脳会談も開かれるだろう。李在明韓国大統領の外交ブレーンは「本当は韓米同盟の再定義問題などもやりたい。韓国側は取り上げる準備ができているが、ホワイトハウスが忙しすぎて、韓国に目を向けてくれない」と語る。トランプ氏は北朝鮮の金正恩総書記とは挨拶を交わすのかもしれないが、朝鮮半島を巡る安全保障問題が進展する状況にはまだないようだ。


