起業家

2025.10.22 12:00

​​スヌープ・ドッグも虜にした「チキンフィンガー帝国」 資産3.3兆円創業者の軌跡

レイジング・ケインズ・チキンフィンガーズ 創業者 兼 CEOトッド・グレイブズ(Matt Winkelmeyer / Getty Images)

レイジング・ケインズ・チキンフィンガーズ 創業者 兼 CEOトッド・グレイブズ(Matt Winkelmeyer / Getty Images)

トッド・グレイブスはまるで観光ガイドのように、自身の起業の原点を案内し始めた。最初に訪れたのは、ルイジアナ州立大学(LSU)から1ブロック離れた小さなレストラン。真夏の太陽がアスファルトを照りつける中、彼はドライブスルーを通り抜け、29年前に自ら設置したメニューボードの前で足を止めた。「これは私が作ったんだ」と彼は言い、木材を仕入れた地元の製材所の名前を教えてくれた。建物の側面に描かれた長さ6メートルの壁画も、彼自身の手によるものだ。そして、バトンルージュ(ルイジアナ州の州都)の看板店でデザインしたという「チキンフィンガー(鶏のささみ、あるいは胸肉を細く切ったもののフライ)」のネオンサインを誇らしげに指さした。

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狭い食堂の中で、グレイブスは壁に掛けられた愛犬の絵や、自ら取り付けたというディスコボール、そして自分の名前を刻んだテーブルを見せてくれた。「裏にも行こう」と言うと、彼は厨房を抜け、クローゼットほどの広さしかない事務室へと案内してくれた。そこには、帳簿をつけるために手作りした小さな机が置かれていた。「ここで何時間もかけて売上を数えた」と彼は当時を振り返った。

入口付近で、二十代前半と思しき若者がグレイブスを呼び止め、ドライブスルー形式の犬用おやつチェーンのビジネスプランを売り込んできた。グレイブスは、まずはトレーラーやイベントブースなど、小さな形から始めてみるといいと助言した。今でこそ賢明で慎重な助言をする彼だが、若き日の彼ならそんな意見には耳を貸さなかっただろう。

グレイブスは22歳のとき、チキンフィンガーだけを提供する店を出せば、LSUの学生たちに受け入れられると確信していた。しかし、子どもっぽいメニューに加え、経営経験も資金もなかった彼に、銀行は「馬鹿げたアイデアだ」と一蹴した。「起業家は、心の底から信じるアイデアを持っていれば、『無理だ』や『うまくいかない』といった否定的な意見を糧にできる」と彼は語る。現在53歳となったグレイブスは、今も若々しい外見を保ち、灰色がかった茶色の髪をなびかせながら、「それこそが、起業家にとって最高の経験となる」と、ルイジアナ特有のゆったりとした南部訛りで語った。

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必死に資金をかき集めて第一号店をオープンしてから30年が経ち、いまやグレイブスが設立した「Raising Cane’s Chicken Fingers(レイジング・ケインズ・チキンフィンガーズ)」は、全米42州で900店舗を超えるまでに成長した。全米でも屈指の規模を誇るレストランチェーンの一つであり、現在も年間およそ125店舗のペースで出店を続けている。それでも彼は満足せず、より迅速に店舗数を拡大することを目指している。昨年の売上高は51億ドル(約7650億円)に達し、1店舗あたりの平均売上は660万ドル(約9億9000万円)という驚異的な水準を記録した。これは業界トップであるチックフィレイの750万ドル(約11億3000万円)に次ぐ規模であり、主要チェーンのうち6社を除けば、他社の2倍以上にあたる。一般的にファストフード業界では、1店舗あたり200万ドル(約3億円)を超えれば成功とされる。「信じられない実績だ」と、レストランコンサルタントのジョン・ゴードンは驚きを隠さない。

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編集=朝香実

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