いまや映画俳優、ロックスター、トップアスリートがこぞってレイジング・ケインズの広告塔を務めている。昨年だけでも、NFLスターのトラビス・ケルシーやラッパーのアイス・ティー、WNBA(全米女子プロバスケットボールリーグ)のエンジェル・リースなど、80名を超える著名人がプロモーションに関わった。グレイブスは、友人であるミュージシャンのポスト・マローンから、ユタ州にある彼の自宅近くに出店してほしいと依頼を受けた際、店舗デザインをマローンに一任し、鮮やかなピンクに彩られた店舗が誕生した。さらに、グレイブスはその店舗の利益をマローンと分け合った。
しかし、シンプルなメニューは消費者に飽きられないのだろうか。インフレに疲弊した消費者の多くは、セットメニューやアプリ限定特典といったお得感を求めているが、グレイブスはいずれも導入していない。一方で、競争環境は激化している。先述の業界アナリスト、ゴードンは「これまでになくチキンフィンガーへの注目が高まっている」と指摘する。マクドナルドは4年ぶりの新メニューとしてチキンテンダーを投入し、急成長中のウィングストップも新たにクリスピーストリップを導入した。さらに今年6月、ビリオネアのニール・アロンソン率いるロアーク・キャピタルが、スパイシーフィンガー専門店「デイブズ・ホットチキン」の株式70%を10億ドル(1500億円)の評価額で取得。いまやタコベルでさえチキンテンダーを提供している。
これらの問いに対するグレイブスの答えは明快だ。それは、既存の戦略をさらに加速させることだ。彼は出店ペースを一段と引き上げ、セレブリティとのコラボレーションを強化した。また、増員したスタッフを収容するため、テキサス州プラノには約3万7100平方メートルの新本社キャンパスを建設。値下げやメニュー刷新の兆しは一切ない。その代わりに、彼と共同CEOのAJクマランは海外展開に注力している。中東で展開中の52店舗に続き、欧州やラテンアメリカへの進出を計画中だ。彼らは、2030年までに売上高100億ドル(約1兆5000億円)、店舗数1600店の達成を目標に掲げている。栄枯盛衰の激しい外食業界にあって、既存店売上高を16年連続で伸ばし続けているグレイブスに、今さら戦略を変える理由などないのだ。
「私はこれまで行ってきた戦略をただ継続するだけだ」とグレイブスは宣言する。「もし他社が同じことを試みるなら、相当な実力が求められる。なぜなら、我々は決して手を緩めないからだ」と彼は語った。


