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2025.10.22 12:00

​​スヌープ・ドッグも虜にした「チキンフィンガー帝国」 資産3.3兆円創業者の軌跡

レイジング・ケインズ・チキンフィンガーズ 創業者 兼 CEOトッド・グレイブズ(Matt Winkelmeyer / Getty Images)

レイジング・ケインズは現在、1日あたり平均で640万本のチキンフィンガー、70万ポンドのクリンクルフライ、150万枚の厚切りテキサストーストを販売している。メニューをシンプルに保つことには利点がある。マクドナルドのように100種類以上のメニューを管理する場合、新鮮なリンゴのスライスから冷凍ビーフパティ、アイスクリームミックスに至るまで、複雑なサプライチェーンを運営しなければならない。これに対し、レイジング・ケインズは扱う品目が限られているため、コストを抑えつつ、グレイブスが強くこだわる新鮮さを維持することが可能となっている。

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レイジング・ケインズでは、鶏肉を生の状態で店舗に届け、店内でマリネし、スタッフが手作業で衣をつけている。テキサストーストも店内でバターを塗り、グリルで焼き上げられる。さらにレモネードは毎朝、従業員が手絞りで仕込むほか、看板商品のケインズソース(マヨネーズとケチャップをブレンドした酸味のソース)も全て手作りで提供される。

メニューを絞り込んだことで、レイジング・ケインズでは料理をフライヤーで揚げた後、わずか30秒ほどで皿に盛り付けることが可能となっている。店舗には保温ランプも保温庫も設置せず、調理から数分以上経過した料理は一切提供しないという。価格も手頃で、看板商品のボックスコンボ(チキンフィンガー4本とサイド3品)は約10.5ドル(約1600円)に設定されている。注文時の迷いによる待ち時間をなくすため、グレイブスはスパイシー味のオプションさえ提供していない。レストラン業界誌『QSR』によれば、レイジング・ケインズのドライブスルー通過時間は平均約2.5分で、マクドナルドより40%速く、KFC(ケンタッキーフライドチキン)の3倍のスピードを誇る。

2004年頃、グレイブスはブランド拡大のため、経験豊富な飲食店経営者や優秀な従業員を対象に、フランチャイズ展開を開始した。フランチャイズ店の割合は、2016年までに全店舗の約30%にまで拡大した。しかし、彼はフランチャイジーの経営を完全にコントロールできないことに強い苛立ちを覚えた。「直営店の成績が100点中95点でも、フランチャイジーが85点しか出せなかったら、その10点の差がどうしても我慢できなかった」とグレイブスは語る。このため、彼はフランチャイズ店の買い取りを進め、現在では全米のフランチャイズ店はわずか22店舗にまで減少した。一方、中東市場では、現地事情に精通したフランチャイジーに依存しており、52店舗がフランチャイズ方式で運営されている。

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昨年、レイジング・ケインズは9億2800万ドル(約1390億円)のEBITDA(利払い・税金・減価償却前利益)を計上した。同社は、純有利子負債26億ドル(約3900億円)の返済をしつつ、推定2億5000万ドル(約375億円)の配当をグレイブスに支払った。グレイブスは個人資産を積極的に運用しており、これまでに不動産を中心に約150件の投資を行っている。最近では、ナッシュビル(テネシー州の州都)にあるマルガリータビルホテルが入居するビルを7500万ドル(約113億円)で購入したほか、数ブロック離れたフォーシーズンズホテルの屋上には1500万ドル(約22億5000万円)のペントハウスを取得している。

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編集=朝香実

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