バイオ

2025.10.21 15:15

3分で読む坂口ノーベル賞。『美人キャラ 制御性T細胞と「免疫設計」が狙う超精妙』

イメージは筆者作成。制御性T細胞は、免疫システムにおいてとても重要な役割を果たす

がんが免疫の監視から“見逃される”理由

免疫は一方的に強くすればいいというものではない。

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過剰に働けば自己免疫疾患を引き起こす。だが逆に、ブレーキが強くかかりすぎると、今度はがん細胞が“見逃される”。

坂口氏が発見した制御性T細胞(Treg)は、免疫の暴走を防ぐブレーキ役だが、がんはこの仕組みを巧みに利用し、免疫の監視から逃れてしまう

2018年、本庶佑氏がノーベル賞を受賞した免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」は、このブレーキを外し、免疫を再び活性化させる治療として注目を集めた。しかしその効果は2〜3割の患者にとどまり、一方で免疫が暴走して臓器を攻撃して壊してしまったり、制御性T細胞の方を強く活性化して、免疫の攻撃が止まってしまい、がんの急速な悪化(ハイパープログレッション)を起こして、最悪死に至るケースも報告されている。

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坂口氏は先日の会見でこう語った。

「免疫チェックポイントの治療で効く人は2〜3割。私たちはそれを5割、6割にまで高めたいと思っています」

坂口氏が目指すのは、免疫を“外す”ことではなく、“精妙に制御する”ことだ。アクセルとブレーキのバランスをデザインし、個々の患者に最適化する━━それが次の課題である。

(イメージ画像)
(イメージ画像)

がん治療でその方向性を具体化しているのが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の小林久隆氏が開発した光免疫療法(NIR-PIT)だ。がん細胞に結合する抗体に光感受性物質を付与し、近赤外光でピンポイントに破壊する。全身の免疫を暴れさせるのではなく、光で局所的に「がんだけを狙う」というアプローチである。

さらにこの治療は、がん細胞そのものを壊すだけでなく、がんが隠れ蓑として利用しているTregを選択的に破壊し、免疫細胞の攻撃力を回復させるというメカニズムも可能にする

マウスの実験では、Tregに結合する薬剤を投与し、光を当てて破壊すると、免疫機能が復活し、腫瘍が急速に縮小した。日本でも2022年から、転移性肝腫瘍を対象にした臨床試験が国立がん研究センターで進められている。

坂口氏の「制御」と、小林氏の「精密」。両者の研究は、免疫を制御の効かない“暴力の力学”から“秩序の科学”へと導こうとしている。

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文=芹澤健介 編集=石井節子

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