経済

2025.10.20 15:15

世界は日本の空き家活用モデルを学ぶべき Airbnb創業者が見た「日本の共創力」の真髄

ネイサン・ブレチャージク Airbnb共同創業者兼最高戦略責任者(CSO)

ネイサン・ブレチャージク Airbnb共同創業者兼最高戦略責任者(CSO)

「日本の空き家活用を通じた地方創生のパートナーシップはとても厚みがあり、世界で類を見ないものです」そう話すのは、世界の民泊仲介最大手、Airbnb共同創業者で最高戦略責任者(CSO)のネイサン・ブレチャージク(42)だ。

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同氏は10月1日、都内で行われたJTBとの協働プロジェクト「地域未来にぎわい工房」発表のために来日。空き家活用を中心とした日本での地方創生モデルについて、世界の先駆けとして注目していることを会見後のインタビューで明かした。


町おこしを一過性で終わらせない、「新・空き家活用」戦略

総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、日本の空き家数は全国で約900万戸。総住宅数に占める空き家比率は13.8%に上り、過去最高となった。これまで、空き家の適切な管理や解体を促す法改正に加え、自治体をはじめ不動産仲介会社やハウスメーカー、専門のベンチャー企業などによって空き家活用の取り組みが進められてきた。しかし、採算性の低さなどが障壁となり、増加には歯止めがかかっていない。

Airbnbはそうした中、約10年にわたり全国で古民家などの空き家を再生した民泊事業と、それを核とした地方創生事業に注力し、200社超の企業や自治体と連携を進めてきた。背景には、訪日外国人旅行客(インバウンド)の増加や観光分散の動きに対応するための地方での宿泊在庫の確保、地域経済への貢献によるブランド価値向上といった狙いがある。

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同社は活動を通じて、空き家からリステイング(民泊施設)への転換と運営のノウハウ、地域住民との合意形成方法、そして宿泊需要を喚起するパブリシティ戦略などの知見を蓄積。前年比で地方のリスティングが2025年1Qで26.2%増、2024年の予約数が約25%増加する成果につなげた(※)

今回のJTBとの「地域未来にぎわい工房」プロジェクトでは、地方の自治体や住民、複数企業と連携し、空き家を民泊として再生するだけでなく、ビジネス用途で訪れた人の滞在インフラや災害時の避難所、仮住まいとしても整備。空き家の活用用途を観光支援から産業、防災支援へと広げていくことで、地域で多様な人々の滞在と交流が生まれる仕組みをつくり、町おこしをより持続的なものとする。

「当初、日本での取り組みは小規模でしたが、興味を示してくれた地元企業や住民などのステイクホルダーと膝を突き合わせて試行錯誤を重ね、実績を積んできました。これからは私たちが作ったプレイブックをもとに、JTBの幅広いネットワークを生かし、拡大させていく段階です」(ブレチャージク)

プロジェクトでは、JTBが全国の拠点を生かして企画・実行を行い、Airbnbはマーケティング支援と送客を担当する。すでに良品計画やCCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ、損害保険ジャパンなどの大手企業の参画が決定し、北海道や宮崎県、鹿児島県では活動が始まっている。2028年までに、全国125地域での展開を目指すという。

※ 日本国内のAirbnbユーザーによる2023、24年の宿泊予約数での比較

「心の過疎」を吹き飛ばす

会見には、同プロジェクトに参画する北海道上ノ国町 工藤昇 町長も登壇した。同町では、人口が1960年の1万4674人をピークに減少し続け、現在は約4000人。20年後には約1600人となる予測が出ており、「これは日本の末端(の問題)ではなく先端だ」と訴えた。

そして工藤町長は、人口が減少した地域では住民がネガティブなマインドに陥り、空き家が残される状況を説明。「Airbnb、JTBとの取り組みで、不良資産の空き家が優良資産へと変わるかもしれない。心の過疎も、吹き飛ばしていきたい」と期待を寄せた。

次ページ > 共創の原動力は「日本に息づく精神」

文= 本田賢一朗 編集=大柏真佑実 撮影=木村辰郎

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