経済

2025.10.20 15:15

世界は日本の空き家活用モデルを学ぶべき Airbnb創業者が見た「日本の共創力」の真髄

ネイサン・ブレチャージク Airbnb共同創業者兼最高戦略責任者(CSO)

町では、約7000億円以上の経済効果が見込まれる洋上風力発電事業を誘致したが、その建設や運営のために町に滞在することになる労働者や関係者の宿泊需要に応える術がなかった。また、観光が盛んな函館市に隣接し、インバウンドの増加を見込むも、受け入れ体制が整っていなかった。そうしたことから、同プロジェクトへの参画を決めた。

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今年4月から高校生や住民参加のDIYワークショップ、企業と連携したリノベーションを実施し、町内の空き家を宿泊施設に転換する取り組みを進めている。すでに2軒の宿泊施設が完成し、11月にはAirbnb上に新たなリスティングの公開を予定。今後まずは30〜40軒への拡大を目指す。

 上ノ国町。北海道南西部に位置し、豊かな自然と90カ所の遺跡、温泉などの観光資源も有する農漁業のまち
 上ノ国町。北海道南西部に位置し、豊かな自然と90カ所の遺跡、温泉などの観光資源も有する農漁業のまち

空き家の増加は、日本だけの問題ではない。欧州をはじめ世界で社会問題となっている。ブレチャージクによると、フランスでの空き家率は8%、イタリアでは13%に上るという。Airbnbでは欧州で解決に向け、空き家が多い地方への分散型観光プロジェクトを推進しているが、イタリアではリスティングに転換した元空き家物件の短期レンタルの利用率は、わずか1.3%。年間120泊以上利用されている物件となると、その割合は0.11%まで下がるという。

さらに、空き家活用の取り組みの多くが単発の事例にとどまり、グローバルでは日本のように多様なステイクホルダーが連携して地方創生のエコシステムを構築する動きや、それを全国に広げていくような規模化のフェイズには至っていないと同氏は語る。

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共創の原動力は「日本に息づく精神」

ではなぜ、そうした空き家活用を中心とした地方創生が、日本では実現できたのだろうか。ブレチャージクはその解のひとつを、日本人ならではの精神に見出している。

「日本における協力の文化は、『和』の心に根ざしていると思います。特に地方では、町や文化、暮らしを守るために人々が長く協力し合ってきた強い共同責任の伝統があります。この精神は、今日の行政、企業、市民の連携にも自然に受け継がれており、共通の目的に向かって力を合わせる姿勢につながっている。そこで培われた信頼関係こそが、空き家再生のような取り組みを可能にし、観光が経済的な利益だけでなく、文化の保護や地域の再生にもつながる仕組みを生み出すのです。日本のアプローチは、世界が学ぶべきものです」(ブレチャージク)

しかし、空き家の活用には改修時にかかる初期費用や継続的に発生する運営費用など、コストの問題が重くのしかかってくる。他にも、地域によって異なる補助制度や温度感の違いなど、ハードルは多い。今後どのようにそれらを乗り越えていくのか。同氏がキープレーヤーとしてあげるのは、ホスト(宿泊施設の貸し出し人)の存在だ。

「Airbnbのホストは単なるリスティングのオーナーではなく、地域経済を動かす起業家なのです。彼らがまず一軒の空き家を再生し、そこで収益を得て二軒目、三軒目へと挑戦する。ホスト一人ひとりの自律した活動が広がることによって、地域経済にインパクトがもたらされる。我々にはグローバルで500万人規模のホストネットワークがあります。彼らの自律的な活動をサポートし、我々のネットワークを生かした非中央集権型モデルの構築を目指していきます」(ブレチャージク)

Airbnbは日本での取り組みに着想を得て、2022年から欧州ではフランス、イギリス、スペイン、イタリアなど複数の国で古民家などの文化遺産での滞在や、歴史的建築物の修復サポートを行う「ヘリテージ観光」施策を展開している。不良資産を、地域の未来を担う資源に変える。日本から生まれた空き家活用のモデルが、世界へと広がり始めている。

「ヘリテージ観光」施策が展開されているイタリアのシチリア島西部の町サンブーカ(C)Airbnb
「ヘリテージ観光」施策が展開されているイタリアのシチリア島西部にある町サンブーカ(C)Airbnb
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文= 本田賢一朗 編集=大柏真佑実 撮影=木村辰郎

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