ルール5:「万人に好かれようとするのは、何も主張していないのと同じだ」
多くの創業者は、できるだけ多くの人に受け入れられることを目指す。しかし、その姿勢はしばしばブランドを印象の薄いものにしてしまう。デナーはその逆を行った。彼女は、自分にとって理想の顧客に焦点を絞ったのだ。「私たちの商品を購入する顧客は、ブランドを心から支持し、愛してくれる」とデナーは語る。発売初日にわずか7分で5万個が完売した事実が、それを裏付けている。「私たちの商品は万人向けではないし、私自身もそうではない」と彼女は断言する。
万人受けを狙うブランドは、メッセージがぼやけ、最終的には誰の心にも響かない。デナーは、nuudsが誰にでも合うブランドではないことを受け入れたことで、大胆な決断ができたという。具体的には、多様な体型のモデルを起用し、シルエットを美しく見せる高品質な縫製を採用し、価格は競合ではなく製品の品質に基づいて設定した。
この戦略の結果、全ての人がnuudsを好んだわけではないが、一度ファンになった顧客は強固な支持者となった。流通の混乱が起きたときでさえ、彼らはブランドを見放さなかった。これは、nuudsが顧客の心に深く根づいた証拠だ。マーケティングの世界では、この現象を「ブランドの堀(brand moat)」と呼ぶ。感情的なつながりが、より安いブランドへの乗り換えから守る防壁となるのだ。こうした忠誠心と確信は、デナー自身の起業家としての姿勢を映し出している。彼女の最後のルールは自分自身に賭けることだ。
ルール6:「自分自身に賭けろ」
デナーと夫は、ベンチャーキャピタルの支援も、いざというときのセーフティーネットもない中で、nuudsに全財産を投じた。「誰かに賭けるのであれば、まず自分たちに賭ける」と彼女は語る。この自己への確信は、父親が借金と富を繰り返す姿を目の当たりにした経験に根ざしている。「一度成功を収めたなら、また成功できる」と、彼女は断言する。
二人にとって、自己資金での事業運営は単に経営権を維持することにとどまらず、常に緊張感を保つ契機ともなった。一銭一銭の重みがイノベーションを生む原動力となったのだ。例えば、製造前に製品を発表して需要を測る手法も、こうした状況から生まれた。
ローンチ直前にウェブサイトがダウンした際、デナーにはなだめるべき投資家も、責任を転嫁できる取締役会も存在しなかった。全責任を負うという恐ろしさがある一方で、問題を修正する全権限も彼女に与えられていたのである。
デナーにとって、これらのルールは単なるビジネスの原則にとどまらず、自身の成長を促す指針でもある。アントレプレナーシップとは、事業の成功と同じくらい、個人としての進化の重要性を思い起こさせるものである。
デナーのアプローチで最も印象的なのは、自信が魔法のように湧き出たり、ポジティブ思考で問題を回避できるといった幻想を語らない点にある。彼女は、成功者なら誰もが知っているが、めったに口にしようとしない現実を率直に認める。それは、成長には不快感が伴い、自信は自己肯定ではなく行動から生まれること、そして時には最悪の恐怖が現実になることさえあるが、それを乗り越えることが重要だという事実である。
「ある程度の失敗を経験していない人が、本当に成長していると言えるだろうか。あなたはリスクを取っているのか、それとも安住しているのか」と、彼女は問いかける。


