サイエンス

2025.10.11 17:00

1938年に「永遠に姿を消した」フクロオオカミ、その最後の写真

フクロオオカミ(Shutterstock.com)

フクロオオカミ(Shutterstock.com)

1930年に、ある写真が撮影され、それは、種の絶滅を痛烈に伝えるものの一つとして衝撃的なものになった。その写真の中では、タスマニア島の農業従事者ウィルフ・バッティが、フクロオオカミの死骸のとなりに立っている。知られているかぎりでは、最後に殺された野生のフクロオオカミだ。

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絶滅をめぐる広範な議論では無視されることが多いものの、この写真は、それ以前の数百万年にわたって生き延びてきた捕食者の一系統の終焉を示すものだ。

素人目には、この動物はイヌかオオカミに似ているように見える。だが、もっとよく調べると、重要な違いがあらわになる。体つきはイヌやオオカミよりも引き締まっていて、尾はカンガルーの尾に近く、背中の後方はトラそっくりの縞模様になっている。この動物はフクロオオカミ(学名:Thylacinus cynocephalus)だ。

フクロオオカミは、オーストラリアとニューギニアだけに生息していた肉食の有袋類だ。かつては多様だった捕食者の系統の最後の生き残りでもあった。

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進化生物学における哺乳類相(mammalian fauna)を研究してきた筆者は、フクロオオカミの絶滅は、一つの種の喪失をはるかに超える出来事だったと断言できる。実際、一つの生態系の物語全体を沈黙させた可能性もある。

イヌよりもカンガルーに近い、隔離された環境で生きる捕食者

フクロオオカミは、フクロネコ目(Dasyuromorphia)と呼ばれるグループに属する。これは、フクロネコやタスマニアデビルといった現生の近縁種を含む有袋類の目だ。有袋類の肉食動物は、オーストラリア大陸の比較的孤立した状況で進化し、世界の他の地域でオオカミやキツネ、大型ネコ科動物などの有胎盤哺乳類が占めているニッチ(生態的地位)を占めてきた。

フクロオオカミは、収斂進化の典型例だ。収斂進化とは近縁ではない種が同じような環境に適応し、同じような形質を進化させるプロセスを意味する。フクロオオカミは、遺伝的にはイヌよりもカンガルーに近いが、イヌのような頭骨と体形を進化させた。これは、イヌ科動物のいない生態系での頂点捕食者としての役割を反映している。

欧州人が入植したころには、フクロオオカミは、オーストラリア本土からはとうの昔に姿を消していた。おそらくは、気候の変化、人間による狩猟、3500年前ごろのディンゴの導入(ディンゴの起源は、オーストロネシア人の拡散に同伴してオーストラリアに連れてこられたイヌと考えられている)という要素の組みあわせによって押し出されたのだろう。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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