ICEの狙いは予測データ配信による収益化、将来のトークン化協業も
ICEにとって、Polymarketへの出資は単なる「予測市場への賭け」ではない。この取引により、ICEはPolymarketの予測データを世界中の数千の金融機関に配信できるようになり、プラットフォーム上の投資家心理や確率評価などの指標を、新たな収益源として活用できるようになる。
ICEの会長兼CEOであるジェフリー・スプレッチャーは声明で、この出資を「伝統的な金融と分散型イノベーションの架け橋」に位置づけた。また今回の提携には、「将来のトークン化プロジェクトでの協業」が盛り込まれており、ICEがPolymarketを、機関投資家を中心とする金融分野に暗号資産や分散型金融(DeFi)を広く導入するための入り口と見なしていることが示唆されている。
このタイミングは、ICEが推進してきたデジタル資産戦略の流れとも合致している。同社は長年にわたり暗号資産やブロックチェーンの応用を模索しており、今回のPolymarketとの取引は、これまでで最も踏み込んだ取り組みといえる。
大統領選期は月間約3040億円超の取引、終了後も約1520億円を維持
Polymarketの取引高は、2024年の米大統領選の期間中に月間20億ドル(約3040億円)を超え、プラットフォーム上の予測の精度は、一貫して従来の世論調査を上回っていた。同社の発表には、大統領選後も月間取引高は10億ドル(約1520億円)規模に達する月が続いたとあり、機関投資家と個人投資家の双方から根強い関心が続いていることが示されている。
対象は政治から金利やエンタメまで拡大、市場の予測が専門家を上回る例が増加
同プラットフォームが示すトレンド把握の精度は、政治分野にとどまらない。ユーザーは現在、あらゆるテーマの賭けを行っており、専門家の予測を上回る流動性の高い市場を生み出している。その対象は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金利をめぐる決定からファッション業界の動向、エンタメ分野の授賞式までさまざまだ。そしてこうしたデータは、代替的な情報源を求める金融機関からも注目を集めている。
従来型オンライン賭博大手が競合視に転じ、予測市場の位置づけが変化
今回のICEによる出資は、機関投資家による予測市場の採用拡大の流れとも重なっている。DraftKings(ドラフトキングス)やFlutter(フラッター)といった従来型のオンライン賭博の運営会社も、暗号資産を基盤とする予測市場プラットフォームを現実的な競合として意識し始めており、長年軽視してきたこの分野をついに本格的に評価し始めた。
予測市場を取り巻く規制環境も追い風だ。この分野には、トランプ大統領がCFTC委員長に一時期指名していたブライアン・クインテンツなど、有力な支持者が現れている。クインテンツは、Polymarketの競合のKalshi(カルシ)の取締役も務めており、こうした政治的支援は今後も予測市場業界における規制の明確化が進むことを示唆している。
筆者が見立てる提携の未来、ウォール街はトークン化時代へ向かうか
ICEとPolymarketとの提携は、ウォール街が予測市場のみならず、「トークン化」を本格的に受け入れ始めたことを示している。ICEのスプレッチャー会長兼CEOは声明の中で、「トークン化による新しい金融時代の到来」を強調しており、同社が従来型の金融インフラを活用して、機関投資家による暗号資産の導入を加速させる構想を描いていることがうかがえる。
Polymarketは、イーサリアムのレイヤー2ネットワークであるPolygon(ポリゴン)上で運営されており、これによりICEはDeFiのプロトコルに直接関わることになる。今回の提携は、DeFiの新たな技術革新を伝統的な金融市場に導入するための足がかりにもなり得る。
今回の20億ドル(約3040億円)の出資は、Polymarketの評価を裏付けるだけではなく、予測市場そのものが重要な金融インフラへと発展し得るという、より大きな構想への信任を示すものでもある。かつて規制当局から追放されていたPolymarketが、今やウォール街で確固たる地位を築くまでに至った道のりは、暗号資産分野の企業が粘り強さと実績、そして戦略的な法令順守を通じて主流に受け入れられていくプロセスを象徴している。
パンデミックの最中にPolymarketを立ち上げた創業者のシェイン・コプランにとって、今回のICEとの提携は、「予測市場こそが真実を見いだすための重要な役割を果たす」という自身の信念が正しかったことを証明するものとなった。


