全米を巡業する野球界で最も奇抜なチーム「サバンナ・バナナズ(Savannah Bananas)」は、年間1億ドル(約152億円。1ドル=152円換算)以上を稼ぎ出している。しかし、黄色いタキシードを着たオーナーのジェシー・コールが目標とするのは、10億ドル(約1520億円)の評価額ではない。「10億人のファン」を手に入れることだ。
野球をショーに変えたエンタメ集団、サバンナ・バナナズの正体
9月の暖かい夜、ヤンキースタジアムのフィールドに立つコールを、約4万9000人の観客が息を呑んで見守っていた。まもなく始まるのは、チーム恒例の「ファースト・ピール」と呼ばれる儀式で、若いファンがバナナをかじり、その果実が新鮮ならば幸運、腐っていれば不吉というものだ。
試合前の儀式は“バナナ”、観客を巻き込む独特の開幕
おなじみの黄色いタキシードとシルクハット姿のコールが、チームのマスコットである巨大なバナナの「スプリット」を呼び寄せる。スプリットが黄色いスーツケースを差し出すと、コールはその中から1本のバナナを取り出し、3歳の少女エリーに手渡した。満員の観客が固唾をのむなか、エリーが一口かじり、少し噛んでから叫んだ──「おいしい!」。その瞬間、スタジアムが歓声に包まれ、ダッグアウトから白い煙が上がり、クール・アンド・ザ・ギャングの『セレブレーション』が鳴り響いた。
もちろん、このチームの成功はバナナの熟れ具合に左右されたりしない。その成功は、2015年に設立した「サバンナ・バナナズ」を全米で最も有名な巡業型チームへと育て上げた41歳のコールの手腕によるものだ。
「私たちは、最高のショーと最高のエクスペリエンスを人々に届けていくんだ。それしか考えていない」と彼は言う。
試合時間を2時間に制限しバントは禁止、スピーディーな展開で魅了する「バナナ・ボール」
コールの情熱は確実に実を結んでいる。ここ数年、バナナズは「バナナ・ボール」と呼ばれる独自のスタイルの野球で全米の観客を魅了している。このチームは、伝統的な野球のテンポの遅さを排し、トリックプレーや演出を絶え間なく繰り出している。外野手が宙返りしながらフライを捕り、投手が竹馬に乗ってマウンドに立つ。試合の合間にはダンスパフォーマンスが入り、審判が腰を振って踊ったりもする。
打者はバッターボックスから出ることを禁じられており、常に試合が途切れず進行する。試合時間は2時間に制限されており、その間には著名人や音楽アーティストによるサプライズ出演も盛り込まれる。この9月の夜には、ニューヨーク・ヤンキースの名将ジョー・トーリやボーイズグループのビッグ・タイム・ラッシュらが登場した。観客がファウルボールをキャッチすればアウトとなり、バントは「観ていて退屈だから禁止」とルールブックに明記されている。
観客数は4年で4倍を記録、数字が示すファンの熱狂
ファンの熱狂はとどまるところを知らない。今年は220万人以上がサバンナ・バナナズと、コールが運営する3つの競合チーム(パーティー・アニマルズ、ファイアーファイターズ、テキサス・テイルゲーターズ)の試合のチケットを購入した。2025年のスケジュールは残り9試合だが、すべて完売している。観客数は昨年の2倍、2023年の4倍に達しており、この旺盛な需要がコールにさらなる挑戦を促している。
今年の「バナナ・ボール・ワールドツアー」は、4チームで合計115試合を実施し、全米40都市を巡った。メジャーリーグの球場17カ所とNFLスタジアム3カ所にも登場し、4月にクレムソン大学のメモリアル・スタジアムで行われた試合では、8万1000人の観客を動員した。
SNSのフォロワー数はMLB全球団超え
そしてバナナズの人気は、オンライン上ではさらに圧倒的だ。フェイスブックやインスタグラム、TikTok、X、YouTubeの合計フォロワー数は2150万人に達し、マーケティング会社トゥー・サークルズによれば、メジャーリーグのどの球団よりも多いという。「NFLが常に存在感で群を抜いているのは確かだが、サバンナ・バナナズが、特にデジタルの世界でここまで強力な存在感を築いたのは驚異的だ」と、トゥー・サークルズの幹部アンドリュー・カーターは述べている。



