チケットは格安でグッズは送料無料、徹底したファン目線の収益構造
しかし、こうした成功をコールは、収益拡大の動機にせず、一貫して「ファンが手の届く価格で楽しめる体験」を守る姿勢を崩していない。チケット価格は、マイナーリーグの球場やバナナズの準本拠地でもあるサバンナのグレイソン・スタジアムでは、食事とソフトドリンク込みで35ドル(約5320円)。メジャーリーグやNFLなどの大型会場でも、平均チケット価格は45〜50ドル(約6840~約7600円)前後だ。最大300人のファン向けに125ドル(約2万円)のプレミアム席も用意されているが、それでもメジャー球団のプレミアムクラブ席や最前列シートのように数千ドル(数十万円)に達するような水準とはほど遠い。
広告を見に球場へ来る観客などいない
これまでのところ、コールは現代のプロスポーツチームやリーグにとって最も重要な2つの収益源──メディア権とスポンサーシップ──にもほとんど手を出していない。ESPNやCW、Roku Sports Channelなどのネットワークと契約は結んでいるものの、すべてを非独占契約にしているため、収益の伸びは意図的に抑えられている。
一方で、バナナズは自前の中継制作に数百万ドル(数億円)を投じ、無料配信している公式YouTubeチャンネルを強化してきた。2025年の試合動画は再生回数1600万回を記録し、2024年の2倍に達している。スポンサーシップ面では、提携企業はBodyarmor、ダンキン、EvoShield、ルイスビル・スラッガー、ウィルソン・スポーティング・グッズのわずか5社にとどまる。「広告を見に球場へ来る観客などいない」とコールは語る。
収益拡大の機会を追うのは、ファンたちの体験やチーム全体の環境改善につながる場合に限定
コールは、収益拡大の機会を追うとしても、それがファンたちの体験やチーム全体の環境改善につながる場合に限るという姿勢を貫いている。現在、約200人の巡業チームのメンバー1人あたりにかかる年間経費は、およそ4万ドルで、宿泊先は五つ星ホテルではないが、十分に快適だという。「オムレツをその場で作ってくれるなら、私は大歓迎だ」と、2018年製のホンダ・アコードに今も乗っているコールは笑いながら話す。
マイナーリーグ選手の平均の約2倍、なかには3倍の報酬も
コールによれば、彼のチームの選手の多くは、試合数がマイナーリーグより約100試合少ないにもかかわらず、マイナーリーグ選手の平均の約2倍、なかには3倍の報酬を得ているという。彼は、今後も「毎年かなりの昇給を実現させたい」と語る。参考までに、MLBの一歩手前の最上位のマイナーリーグの「トリプルA」の最低年俸は、150試合のシーズンで約4万ドル(約608万円)とされている。
「もちろん、僕らの契約はメジャーリーグ並みじゃない」と語るのは、かつて独立リーグで3年間プレーし、現在はバナナズの遊撃手を務めるライアン・コックスだ。「でも、このチームの待遇は、どのマイナーリーグよりもずっといい」。
リーグ創設とチーム増設、熱狂を全米へ拡大する次なる一手
チケットとグッズの売上がバナナズの収益の9割以上を占めていることから、組織が今後どのように成長を続けるのか──あるいは続けられるのかどうか──という疑問は当然浮かぶ。1970年代には全米で社会現象となるほどの人気を誇ったものの、やがて主流から外れていった「ハーレム・グローブトロッターズ」の歩みを思えば、それは決して小さな問題ではない。
コールはまず、来シーズンからリーグ制を導入し、新たに2チームを加えて試合数を増やす計画を立てている。これは、現在350万人にのぼるチケットの待機リストに名を連ねるファンにとって朗報だ。コールは、この数字が10月に全国放送される番組で2026年のスケジュールを発表すれば倍増すると見込んでいる。
バナナズはまた、今後の開催地候補にも事欠かない。それは、会場側が飲食や駐車場収入をすべて得られるうえ、どの試合も例外なく完売となるためだ。コールによれば、来年の観客動員は300万人を超える見通しで、2026年シーズンに向けて200以上の都市から開催希望の打診が届いているという。
「世界でも最も有名で象徴的なスタジアムのいくつもの関係者から連絡を受けている。私が子どもだったころや、エアベッドで寝ながらチケットが2枚しか売れなかった創業初期に、こんなことが起きるとは思わなかった」とコールは語る。
バナナの野球への批判
もちろん、批判を受けることも覚悟していた。バナナの野球が、「伝統的な野球を茶化している」と見る向きに対して、コールはただ一言、「私たちは、そういう人たちのための存在ではない」と答える。また最近、同チームの公式慈善団体「バナナズ・フォスター」の資金の使途が不透明だと指摘する記事がDefector誌に掲載され、コールにも注目が集まっている。
「バナナズ・フォスターは、里親支援の分野で素晴らしい活動を行っている人々を称え、他の人たちにも関心を持ってもらうことを目的とした新しい非営利団体なのです」と妻のエミリー・コールは声明で述べた。「それに加えて、寄付金がバナナズ本体に渡ることは一切ありません」。
評価額約1520億円より価値あるもの、創業者が貫く「10億人のファン」という究極の目標
将来を見据えてコールは今後、チームの売却や外部資本は一切受け入れないと語る。彼によると、バナナズは組織全体を10億ドル(約1520億円)と評価する投資家からの打診を受けているにもかかわらず、それに応じるつもりはないという。
一見すると、その評価額は非現実的に思えるかもしれない。たとえばフォーブスの試算によれば、MLB球団の平均的な評価倍率(収益に対する企業価値の倍率)は6.4倍で、最も低いマイアミ・マーリンズで3.3倍にとどまっている。この倍率で換算すれば、バナナズはその水準には到底及ばない。
だが、スポーツ・コンサルティング会社Pivot Strategy Groupの創業者で、元投資銀行家のエドウィン・ドラガンはこう見る。「現在、多くのスポーツチームがその成長余地の乏しさにもかかわらず、すでに10倍前後の評価倍率を得ている。これを踏まえれば、バナナズが10倍の評価を受けても決して行き過ぎではない。彼らにはまだ手をつけていない“果実”が数多く残されている」。
そしてフォーブスの推計によると、平均的な収益倍率はNBAで11.7倍、NFLで10.7倍、MLSで9.3倍、NHLで8.5倍となっている。
しかし、こうした可能性を前にしても、コールはまったく動じない。彼にとって10億ドル(約1520億円)という評価額は、チームの在り方を変える理由にはならない。彼が目指す10億という数字は、別のマイルストーンだ。
「一人ひとりのファンを増やしていき、その数字を10億人にまで伸ばす──それこそが私の誇りだ」とコールは語る。「お金は、放っておいてもついてくるものだ。私が大事にしているのはそれじゃない」と彼は語った。


