経営・戦略

2025.10.12 08:00

負債2億7000万円・自宅売却・貯金ゼロから逆転、「エンタメ球団」サバンナ・バナナズを創った男

サバンナ・バナナズのオーナー、ジェシー・コール(Photo by Sean Rayford/Getty Images)

あえて収益機会を手放す経営、その根底にある哲学とは

こうした人気を背景に、バナナズは今や強固な収益基盤を築いている。フォーブスの試算によると、コールが率いる4チーム体制の組織の今年の収益は、1億ドル(約152億円)を超える見通しだ。しかも黒字を確保しており、これは特に昨シーズンのニューヨーク・メッツやヤンキースを含む11のメジャー球団が赤字だったことを考慮すると注目に値する(もっともMLB球団の収益規模は、2億5700万ドル[約391億円]から7億2800万ドル[約1107億円]と桁違いに大きい)。

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これらの財務指標をもとに、企業価値を算出するのは難しい。なぜなら、サーカスのような形態をとるスポーツチームに適した比較対象がほとんど存在しないからだ。だが、フォーブスは、MLBおよびマイナーリーグで過去に売却された球団の収益倍率を基準とした試算で、バナナズの企業価値を約5億ドル(約760億円)と見積もった。これは、メジャーリーグで最も低い評価額とされるマイアミ・マーリンズ(10億5000万ドル[約1596億円])のほぼ半分にあたる。ジェシー・コールと妻のエミリーは、「ファンズ・ファースト・エンターテインメント」と呼ばれる会社を通じて、この事業の全株式を保有している。

とはいえ、これほどの数字を示しながらも、バナナズのビジネスにはまだ拡大の余地がある。チケット価格は35ドル(約5320円)から60ドル(約9120円)の範囲に固定され、追加料金や税金は一切かからない。

また、オンラインで販売されるグッズはすべて送料無料だ。バナナズは自前の球場を持たず、各地の会場を数日間だけ借りて試合を行うため、スタジアム内でのスポンサーシップ契約は存在しない。提携先は、選手の用具やユニフォームを提供する企業など、ごく限られている。また、すべての試合は有料配信ではなく、YouTubeで無料公開されている。

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それでもコールは、数百万ドル(数億円)もの稼ぎを逃している可能性を「まったく気にしていない」と語る。「どうすればもっと稼げるかなんて、一度たりとも考えたことがない。私たちはとにかく、可能な限り多くの人を楽しませることしか考えていない。ファンが増えれば、お金は自然についてくる」。

銀行残高4万円・年間1500万円以上の赤字経営、それが原点

コールがこの「ファン第一」の考え方を持つようになったのは、黄色いタキシードを着るよりずっと前の2008年に、ノースカロライナ州の大学サマーリーグチーム「ガストニア・グリズリーズ」のゼネラルマネジャーに就任して初めて球団経営に携わり、バナナズの礎を築いていた頃のことだ。その当時、チームの銀行口座にはわずか268ドル(約4万円)しかなく、年間10万ドル(約1500万円)以上の赤字を抱えており、就任から数カ月間は給与を支払う余裕すらなかったという。

しかし、翌シーズンにコールは、チームの収益を倍増させて約25万ドル(約3800万円)に引き上げ、その後の数年間で、お婆さんを対象にしたビューティーコンテストや、「掘って中国に行こうナイト」「オナラで楽しむナイト」といった奇抜なイベントを次々に企画して、「ショーを少しでも面白くするため」の工夫を重ねたのだった。

負債2億7000万円、自宅を売却し貯金をすべて使い果たす

そして2015年、ニューヨーク・メッツ傘下のジョージア州サバンナのマイナーリーグ球団「サバンナ・サンドナッツ」が、隣接するサウスカロライナ州へ移転した際、ジェシー・コールと妻のエミリーはその空白を埋める好機と見て、サバンナで新たなチームを一から立ち上げる決断をした。ファン投票によって命名された「サバンナ・バナナズ」は、大学生を対象としたサマーリーグ「コースタル・プレーン・リーグ(CPL)」に新たに加盟した。

しかし、チームは発足こそしたものの、活動を始めることすら危うかった。コール夫妻はチームの買収で180万ドル(約2億7000万円)の負債を抱え、組織を何とか存続させるために自宅を売却し、貯金をすべて使い果たした。

しかし、その投資の成果はすぐに現れた。2016年の初戦でチケットが完売し、チームはまもなく黒字化を果たした。

リーグ優勝の安定を捨て、巡業専門の道を選んだ覚悟と決断

バナナズはその後6年間で3度のCPL優勝を果たしたが、コールが見据えていたのは伝統的な野球の枠を超えた未来だった。2018年にはリーグ戦と並行して、「バナナ・ボール」形式のエキシビションマッチを開始。2年後には、バスケットボール界の巡業チーム「ハーレム・グローブトロッターズ」に対する「ワシントン・ジェネラルズ」のような存在として、ライバルチームの「パーティー・アニマルズ」を新たに創設した。

2021年、バナナズは初の「ワンシティ・ワールドツアー」を開催した。これは、名前こそ“ワールドツアー”だが、実際はアラバマ州モービルで行われたわずか2試合のみという、自虐的なユーモアを込めたネーミングだった。だが、この2夜連続の試合はいずれも完売し、延べ7000人以上の観客を集めた。そして2022年のCPLシーズン終了後、コールはチームをリーグ戦から撤退させ、巡業専門チームとして活動する決断を下した。

年間収益、68億円を突破

その判断は大成功だった。メジャーリーグサッカー(MLS)のロサンゼルスFCで共同社長を務め、かつてマンデレイ・ベースボール・プロパティーズで5〜8球団のマイナーリーグチームを10年以上統括していたラリー・フリードマンによれば、当時、最も成績の良い球団でも年間収益はせいぜい1400万ドル(約21億円)程度だったという。

それに対し、2023年に巡業試合を80試合以上へと拡大したバナナズの年間収益は、フォーブスの試算によれば2000万ドル(約30億円)を突破し、翌年には4500万ドル(約68億円)を超えた。

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翻訳=上田裕資

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