GX時代のカギは「データ」にあり──NZeroが目指す脱炭素と経済成長の両立

NZeroの原点は、ウェバーが規制関連の弁護士として働いていた時代の問題意識にある。顧客の大企業は、再生可能エネルギーを可能な限り低価格で調達したいと望んでいたが、当時の市場環境では困難だった。ウェバーはこの課題の根源を「データが不足していること」だと見抜いた。

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「顧客がビジネス目標を達成するために、適切な選択をするためのデータがありませんでした。多くの企業に共通する問題だったので、訴訟を起こす以外の選択肢が必要だと判断したのです」(ウェバー)

企業が良い意思決定をするために必要なデータは、電力会社などが保有しているものの、消費者側がアクセスし、活用することは極めて難しい。この「データの非対称性」を解消し、企業が主体的にエネルギー選択を行い、経済合理性と環境目標を両立できるツールを創り出したい―。それがウェバーの描いたビジョンだった。これに共感したのが、米ノースウェスタン大学でコンピュータサイエンスを研究していたジョン・ルーラCTO(最高技術責任者)である。

ジョン・ルーラCTO
ジョン・ルーラCTO

「意思決定に必要なデータとツールを的確に提供できれば、企業は脱炭素化をコストではなく好機として捉えることができます。効率的であり、成長につながるからです」(ルーラ)

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ルーラの参画により、NZeroは散在する膨大なデータを自動収集・分析する技術基盤を確立した。これにより顧客は、自社のエネルギーデータを正確に把握し、コストと排出量の削減に向けた具体的な行動を策定できる。主な顧客は、米国の州政府やデータセンターのように広域に多数の施設を管理する組織だ。例えば3,500以上の建物を抱える州政府や、複数国に拠点をもつ企業にとって、多様な電力料金や電源構成(エネルギーミックス)を考慮した排出量の正確な把握は至難の業である。NZeroは、この複雑性をテクノロジーによって解決する。もっとも、COO(最高執行責任者)のマット・グーラは、顧客が求めているのは単なる規制遵守や報告の効率化ではないとも指摘する。

「エネルギー管理タイプのアプリケーションに関連するROI(投資収益率)を生み出す方法を模索しています。収益を改善することに反対する人はいません」

結局のところ、ビジネスは経済合理性で動く。NZeroは、脱炭素化への取り組みが、エネルギーコストの削減という直接的な経済的メリットにつながることをデータで証明する。この「ROIへの貢献」こそが、顧客にとっての強力な導入インセンティブとなっている。

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text by Forbes JAPAN | photograph by Kizuku Yoshida

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