経済・社会

2025.10.01 13:45

「太った将軍は容認できない」と言い放ったヘグセス氏 危ぶまれる日米「ワンチーム」の崩壊

9月30日、バージニア州クアンティコの海兵隊基地クアンティコで、ピート・ヘグセス米国防長官が軍の上級将校たちに演説。前例のない集会では、約 800人の将軍、提督、および上級下士官が、世界中から急遽召集された。(Photo by Andrew Harnik/Getty Images)

9月30日、バージニア州クアンティコの海兵隊基地クアンティコで、ピート・ヘグセス米国防長官が軍の上級将校たちに演説。前例のない集会では、約 800人の将軍、提督、および上級下士官が、世界中から急遽召集された。(Photo by Andrew Harnik/Getty Images)

ヘグセス米国防長官が9月30日、世界中に展開する米軍最上層の将軍や提督らをバージニア州の海兵隊基地に集めた。ヘグセス氏は演説で米軍に「DEI(多様性・公平性・包摂性)の行き過ぎがあった」と批判。「太った将軍を見ると嫌気がさす」と語り、身だしなみにも注文をつけた。トランプ米大統領もヘグセス氏を擁護し、バイデン前政権や民主党を非難した。

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第2次トランプ政権の発足以降、DEIを積極的に進めていたとされるブラウン統合参謀本部議長や、女性のフランチェッティ海軍作戦部長らが更迭されていた。ヘグセス氏は演説で、米軍が過去、人種や性別の割り当て、「歴史的初めて」(という試み)に基づき、間違った理由であまりに多くの指導者を昇進させてきたと主張した。

陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は、「多様性重視の見直し」や「身だしなみなどの規律の強化」を唱えたヘグセス氏の主張の背景について「最近、DIME(外交、情報、軍事、経済)を重視している軍の様子を面白く思っていないのではないでしょうか」と語る。「(トランプ氏やヘグセス氏には)軍はあくまで戦闘する組織なのでそれに専念すべしという考え方があるようです」

松村氏によれば、米軍がDIMEを重視している背景には、アフガニスタンやイラン戦争で戦闘に勝利しながら戦略的には勝利できなかった過去の経緯や、「サイバー空間での情報戦や認知戦に勝利しなければ、物理空間で戦う以前に敗れてしまう」という危機感などがある。ただ、トランプ氏やヘグセス氏には「それは政治指導者が考えることで、軍人は戦闘に専念すべきだ」という考えがあるようだという。「連邦軍を米国内の治安維持に使用するのは、合衆国憲法の考え方に反する」などと反論するような頭でっかちの軍人はいらない、黙って言うことを聞けということかもしれない。

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松村氏は「国防総省から戦争省への名称変更も、軍人はあくまで戦うことだけを考えろという意味かもしれません」と語る。同時に、「今の将官たちが、果たしてこの考え方に納得するのかは、はなはだ疑問です。もちろん軍内にもヘグセス氏と同じ考え方の軍人も多くいるので、内部の分裂が広がるのではないかと心配です」と語る。ヘグセス氏が世界中に展開する米軍の将官たちを、わざわざ一堂に集めたのは、「有無を言わせずに従わせよう」という思惑があるからだろうが、逆に言えば、それだけ軍内に不満が広がっているとも言える。

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文=牧野愛博

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