一方、こうした「トランプ政権中枢」と「米軍制服組」との考え方の食い違いは更に深刻化するかもしれない。国防総省は10月中にも、新たな「国家防衛戦略(NDS)」を発表する。トランプ政権中枢はウクライナ戦争での対応に見られるように、「米国外で起きた衝突には基本的に介入したくない」という姿勢を取っている。
松村氏は新たなNDSについて「台湾有事の場合、まず日本や韓国、豪州といった地域同盟国や台湾に対応させるという考えを示すかもしれません」と語る。米軍は主に地域同盟国や台湾を支援する側に回り、米国の国益にプラスになると思えば介入するが、そうでなければ戦わないという「米国ファースト主義」に基づいた国防戦略だ。
松村氏は「もし、そうなら現場の米軍とは考え方に食い違いが出かねません」と語る。米軍は同盟国と一緒に戦う姿勢を示し、信頼関係を築くことに全力を傾けていた。それが、個々の戦闘での勝利につながるという信念があったからだ。松村氏が現役のころ、日米共同訓練があるたびに米軍関係者は「我々(日米)はワンチームだ」と繰り返し、強調していた。米韓連合軍の場合、米軍幹部たちは挨拶をするたび、最後に必ず、「カッチ・カプシダ(一緒に行こう)」という言葉を呪文のように唱えていた。米紙ワシントン・ポストは9月29日、ケイン統合参謀本部議長ら米軍高官が国防総省首脳に対し、今後の米国防戦略に深刻な懸念を表明していると伝えた。
そもそも、「習近平中国国家主席は中国軍に対して2027年までに台湾侵攻の準備を完了せよと指示した」と主張し、準備を急がせてきたのは米国自身だった。「自国の国益を最優先する」という考えは、世界の国々共通のものだが、米国の場合は超大国として世界に関与することで、世界から尊敬を集めて来た。外務省幹部は「省内でも、日米同盟一本やりで大丈夫かという声は少しずつ増えている」と語る。
松村氏は「どんな政権であろうと、政治家の意思に従うのがシビリアン・コントロールです。米軍人たちはこれから、自分たちの職業意識や良心とシビリアン・コントロールとの間で、悩み、葛藤することが増えるのではないかと心配しています」とも語った。


