H-1Bビザ制度は1990年に議会によって創設され、学士号または同等資格を持つ人に年間6万5000件、修士号以上の学位を持つ人に追加で2万件を提供する。テック業界では人気のビザであり、2025年1月から9月にかけての申請数は150%増加したと、HR・給与管理企業のリモートは報告している。ただし、この制度には批判もある。ホワイトハウスの新手数料発表に先立ち、商務長官ハワード・ルトニックはこれを「最も乱用されているビザ」と呼んだ。
プラハを拠点に高齢者向けAI対話ツールを開発するイントゥーチのCEO、ヴァシリ・ル・モワーニュは、今回の発表より前から米国の印象は変わり始めていたと指摘する。「米国がエルドラドであるというイメージは打撃を受けている」と語り、ここ数カ月でトランプが「いじめっ子」と見られ、米国が「歓迎しない国」と見なされていることが背景にあるとした。
それでも欧州は米国のダメージの恩恵を受けることになる。「我々はある意味、トランプに感謝している」とル・モワーニュは語る。彼はフランス出身で、1991年にH-1Bビザを取得して米国に渡った制度初期の受益者のひとりだ。「彼は我々が人材を維持するのを助けているのだ」
初期段階の米国スタートアップにとって、H-1Bビザを用いた採用に10万ドルものコストを払うことは現実的ではなく、通常は株式による報酬に依存しているため、この新手数料は人材獲得競争においてさらなる困難を意味する。Yコンビネーターのギャリー・タンCEOはLinkedInへの投稿で、この手数料は「スタートアップやIT契約企業の膝を砕く」と述べ、「初期段階にあるチームはその税金を飲み込めない。(中略)この政策は、海外のテック拠点にとって大きな贈り物になるという結末を迎える」と指摘した。
一方で資金力のあるスタートアップにとっては、この新ルールの影響は限定的だ。AI企業はすでに数百万ドル単位を優秀なAI人材に費やしており、10万ドルは大きな違いを生まない。AIカスタマーサービス企業、デカゴンのジェシー・ジャンCEOは、この手数料は「新規採用をH-1Bで正当化するのを難しくする」ものの、既存の人材への投資を惜しまないと語った。同社の社員の約10%がH-1Bビザ保持者であり、さらに英国ロンドンにオフィスを開設して現地の人材を活用する計画を進めている。
テック人材にとって米国への移住は常に難しく複雑な過程であり、複雑な規制、厳格な要件、長い待機期間が伴う。そして、トランプ政権下で状況はさらに不透明になっている。移民弁護士エマ・ジャンによれば、ビザの発行が拒否される件数や追加で証拠を要求される件数が増えているという。「以前は、提出した証拠でそのまま承認されていた。しかし今では、政府がプロセスを遅らせ手続きを増やすために、一律でRFE(追加証拠要求)を送ってくる」とフォーブスに語った。


