政治

2025.09.29 09:00

ロシアと中国を結ぶ「シベリアの力2」、世界の天然ガス市場を揺るがす存在に

ロシア北極圏ヤマル半島にある天然ガス生産施設(Wojtek Laski/Wojtek Laski/Getty Images)

500億立方メートルとされる「シベリアの力2」の輸送能力は、欧州向けの最大のパイプラインだった「ノルドストリーム1」と同等だ。しかし、中国がそれほど大量のロシア産ガスを求めているかどうかは別の問題だ。

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これが原因で、同プロジェクトは遅延してきた。ロシアが輸出を望む量は、中国が輸入しようとしている量を上回っているのだ。プロジェクトを遅延させてきたもう1つの問題は、ガス価格の設定方法だった。中国側はロシア国内向けの安価な補助金付きガス価格を求めた一方、ロシア国営天然ガス企業ガスプロムはその2倍程度の高値となるアジアの市場価格を強く望んでいた。両国がこれらの課題をどう解決するのかは不透明だ。とはいえ、これは問題が解決に至らないという意味ではない。

もう1つ考慮すべき点は、「シベリアの力2」がモンゴルの中心部を貫いていることだ。モンゴル政府は一貫して同プロジェクトを支持しており、ウフナー・フレルスフ大統領は北京で開催された習主席とプーチン大統領との三者会談でこの姿勢を改めて確認した。経済発展を見据えるモンゴルは、現在過度に依存している国産の石炭に代わるロシア産ガス供給の可能性と、パイプラインの通過手数料の双方から利益を得ることになる。他方で、同国は2つの大国による利己的な思惑の狭間で板挟みになる可能性も高い。

中国国内でも天然ガス生産が大きく成長

中国との新たな合意によって、ロシアが強い立場を得たように見えるかもしれない。しかし実際には、中国側が主導権を握っている。同国にはロシア以外にも他の多くの供給元があり、今回の合意で選択肢が増えたからだ。これはいわゆる「リスク管理」と呼ばれるもので、対象が籠に盛られた卵であれ、天然資源や輸入品であれ、同じことが言える。強調しておくと、ロシアの原油輸出の半分近くは中国向けだが、中国側にとっては、ロシア産原油は原油輸入全体のわずか17.5%を占めているに過ぎない。

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中国にはさらなる切り札がある。同国では国産の天然ガスが需要全体の6割程度を賄っており、特に17年以降、生産が急増している。中国産天然ガスの多くは従来型の掘削によるものだが、同国はタイトガスやシェールガス、炭層メタンといった非従来型資源の開発もエネルギー目標の中心に据えている。今年後半には、これら非従来型資源の合計生産量が従来型の生産量を上回り、その後も増加を続ける見通しだ。中国は米国さえも上回る、世界最大のシェールガス資源を有しているとの推定もあり、開発が困難でありながらも、近年は大きな進展が見られる。

こうした一連の要因が中国のガス輸入を低く抑えてきたことは疑いようがない。実際、非従来型ガス生産は消費より急速に伸びており、今後輸入ガスの一部を代替できる可能性があることを示唆している。中国政府が五カ年計画で繰り返し強調してきたように、同国の基本的な目標は、可能な限り資源と技術の両面で自給自足を実現することだ。

中露の懸け橋となる「シベリアの力2」

当面、ロシアと中国の間で合意に至った新規パイプライン敷設計画は、天然ガスを巡る地政学を大きく変えることになるだろう。これにより、中国は世界のLNG市場を左右する存在となる一方、米国のガス企業は神経を尖らせることになるだろう。

「シベリアの力2」は、中国がウクライナに侵攻するロシアに対し、追加的に支援する意思を示すものでもある。そしてこれは、プーチン大統領とともに習主席も、自国が必要とする資源の輸入を制限しようとする欧米の制裁に抵抗する可能性が高いことを裏付けている。

forbes.com 原文) 

翻訳・編集=安藤清香

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