宇宙

2025.11.20 15:15

スティーヴン・ホーキングの愛弟子が説く「過去が洋梨の形をしている」理由

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もちろん、私たちがはるばる宇宙の始まりまで見るのは容易ではない。膨張の最初期段階では光子が絶えず散乱されていて、視界が遮られているからだ。ビッグバンを振り返るのは、太陽を見るのと少し似ている。

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太陽の場合、私たちにはかなりくっきりとした輪郭が見えるが、実際にはその表面は、太陽の奥深くで起こる核融合によって発生した光子が最後に散乱された場所にすぎない。「光球」と呼ばれるその表面からは、光子は何にも邪魔されずに私たちのもとに飛んでくる。しかしこの光子散乱のせいで、太陽の内部を直接見ることはできない。光子にとって太陽の内部は透明でなく不透明だ。

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それと同じように、初期宇宙を満たす熱いプラズマの中は、光子が絶えず散乱されていて霧のようになっており、少なくとも光子を集める望遠鏡ではその始まりまで見ることはできない。

新たに生まれた宇宙が透明になったのは、ビッグバンから38万年後、摂氏3000度という快適な温度にまで冷えたときである。この温度になると、原子核が電子と結合して中性の原子になるほうがエネルギー的に有利になり、光子を散乱する電子はほぼ姿を消した。その結果、光子が何にも邪魔されずに空間中を伝わりはじめ、宇宙膨張と歩調を合わせてその波長が1000倍へと徐々に引き伸ばされていった。

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最初に赤色だった光が、百数十億年後には私たちのもとに冷たいCMB放射として届いている。第1章の図2(同書41ページ)に示したそのCMB放射の全天図は、透明になった瞬間の宇宙のスナップショットといえる。しかしそのCMB放射は、それ以前の時代の姿を私たちの目から隠している。CMBの地図は、太陽の光球の「内と外」をひっくり返したものに相当するのだ。

一般相対論において私たちの過去が特異点で終わっていることを踏まえると、名残のCMB放射が空間全体にほぼ一様に分布しているというのは、なんとも不可解な話である。第1章で述べたとおり、図2(同書41ページ)に見られるしみは全天にわたる温度のゆらぎを表しているが、そのゆらぎの大きさは1万分の1度よりも小さい。

見たところ、観測可能な宇宙のどの領域でもビッグバンはほぼ同じように起こっている。これは生命に優しい不思議な特徴の1つである。太陽の光球の場合、温度がほぼ一様なのは予想どおりである。太陽表面から放射されるすべての光子が、太陽内部で相互作用によって熱を交換していたからだ。そうしておのずからほぼ同じ温度になる。ちょうど、冷たいミルクが熱い紅茶とすぐに同じ温度になるようなものだ(少なくともイギリスでは)。

しかし、CMB放射が相互作用によって均一になることは不可能だったように思える。というのも、特異点の時点から、太古の光子が解放されて空間を自由に飛びはじめる時点までのあいだに、完全に温度差を均すのは、たとえ光速で伝わる物理的プロセスであっても不可能だったはずだからだ。

『宇宙・時間・生命はどのように始まったのか?:ホーキング「最終理論」の先にある世界』(トマス・ハートッホ 著、水谷淳 訳、NewsPicksパブリッシング刊)』
『宇宙・時間・生命はどのように始まったのか?:ホーキング「最終理論」の先にある世界』(トマス・ハートッホ 著、水谷淳 訳、NewsPicksパブリッシング刊)
トマス・ハートッホ氏
トマス・ハートッホ氏 (c) Gert Verbelen

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