以下、話題書『宇宙・時間・生命はどのように始まったのか?:ホーキング「最終理論」の先にある世界』(トマス・ハートッホ著、水谷淳 訳、NewsPicksパブリッシング刊)から一部編集の上引用する。
「宇宙誕生の瞬間」は存在しない
スティーヴンがケンブリッジ大学トリニティーホールにやって来たとき、シアマもまた定常宇宙モデルにこだわりつづけていた。そこで、ホイルが定常宇宙論を救うために考え出したそのモデルの1バージョンに関する研究に、スティーヴンを取り組ませた。
するとスティーヴンはすぐに、ホイルのその新バージョンの宇宙論には無限大がいくつも含まれていて、正しく定義されていないことに気づき、1964年にロンドンの王立協会の会合でその点をホイルに問い詰めた。「どうしてそんなことが言えるんだ?」とホイルに質ただされると、イギリス随一の宇宙物理学者にもひるまずに「計算したからです!」と突っぱねた。彼の独立心と、劇的な演出の才能が早くもうかがわれる一件である。定常宇宙論に関するこの分析結果が、のちに彼の博士論文の第1章を構成することとなる。
定常宇宙論にとどめが刺されたのはその数カ月後、宇宙マイクロ波背景放射(CMB放射)が発見されたことによる。その太古の熱が存在したことで、この宇宙は定常状態にはなく、かつては根本的に違っていた、つまり非常に高温だったことが疑いようもなく証明された。しかしだからといって、宇宙に始まりがあったはずだと言っていいのだろうか? もちろん当時はそれがビッグバン宇宙論最大の問題であって、スティーヴンもそれに身を投じる決心をした。



