「高校の文化祭でコブクロを歌って以来、日本語で大勢の前で話すのは初めてです」
金沢21世紀美術館でのトークショーは、森本啓太のこんな告白から始まった。16歳でカナダに渡り、人生の半分以上を海外で過ごした後、2021年に日本へ帰国。現在、同館の「アペルト」シリーズ(若手作家を中心に個展形式で展覧会を開催する取り組み)で個展を開催中のアーティストだ。この日、友人でラジオパーソナリティの長井優希乃、人類学者の水上優と共に、自身の創作の源泉について語った。
森本がカナダ・トロントの美術大学に進んだのは、実は消去法だった。「得意なことが美術しかなかった。受からなかったら日本に帰って英語教師になろうと思って、一校だけ受けたら合格したので」と、運命に身を委ねたような自身の進路選択を振り返って苦笑する。
しかし大学2年の時、ニューヨークのメトロポリタン美術館で見たレンブラントの作品群が、彼の人生を変えた。
「画集では伝わらないインパクトがあった。英語圏ではヒューマンプレゼンスっていうんですけど、レンブラント独特の人間の実在感に圧倒されたんです。次元を超越したような立体感がものすごかった。絵画ってこんなことができるんだって」
森本はマンセルカラーチャートを美術館に持ち込み、作品とカラーチャートを一緒に一眼レフで撮影。写真とカラーチャートを見比べて色を「盗む」という独自の学習法を編み出した。「警備員さんにめっちゃ怒られました。大丈夫だと思ってたんですけど」と振り返る。この執念深さ、いや研究熱心さが次のステップへとつながる。
トロントの大学卒業後、森本は友人3人と絵画教室を始めた。「大学では技術を全く教えてくれなかった。自由学習みたいなのが基本」という現代の芸術教育への反動から生まれた、技術特化型の教育ビジネスだった。色彩理論から始まり、西洋絵画の技法を体系的に教える。いわば大学教育への「逆張り」だ。
面白いのは、森本が追求したのが単なる技術の伝承ではなく、「絵画的な強さとは何か」という本質的な問いだったことだ。「ただ大きなパトロンがついたとか、美術館に収蔵されたから残ってるわけじゃない。本当の絵画的な強さって何か」。この問いは、現代のコンテンツビジネスで「バズる」と「残る」の違いを考える上でも興味深い。
日本の日常に潜むイノベーションの種
最も印象的だったのは、森本が日本の自動販売機に見出した特別な価値だ。きっかけは高校時代の「恐怖体験」。バイクで京都の山道に迷い込み、廃道を15分走った末にたどり着いた場所がなんと袋小路。ケータイも圏外、ガードレールもない真っ暗な山道。べそをかきながら引き返した時、最初に見えた人工的な光が自動販売機だったという。
「あの自販機には心から救われました。自販機は宝石箱です。色もあって、光を放っている。すごいモチーフだと思います」
この発言に、人類学者の水上がツッコむ。「普通、自販機とタイムパーキングの看板があるところで立ち止まって写真撮らないですよね」。



