確かに、日本人にとってあまりに日常的な風景だ。しかし森本の答えがなるほどと思わせる。
「海外だと自販機は外に置けない。ATMを外に置くようなもの。すぐ壊される。日本の安全文化の象徴なんです」
異文化圏での生活経験を持つ者だけが気づく、日本の独自性。これは多くの日本企業が見落としている強みかもしれない。当たり前すぎて価値に気づかないものを発見し、価値化する視点こそ、イノベーションの源泉ではないか。
森本の作品では、西洋絵画における光が神聖なものの象徴だったことを踏まえ、現代の商業的な光を新たな「聖性」として捉え直している。マクドナルドの看板がアメリカのメガチャーチの光る十字架をモチーフにしているという指摘は、ブランディングと宗教性の関係を考える上でも興味深い。
「レールが見えてしまった」時こそチャンス
森本には独特の「逃走癖」がある。高校で大学までのレールが見えて日本を飛び出し、カナダでも29歳で「40歳までのレールが見えてしまった」と感じて帰国。「常に未知数のものがないと生きている感じがしない」という。
これは単なる逃避だろうか。むしろ、キャリアの硬直化を避ける賢い選択と見るべきだろう。実際、森本は場所を変えるたびに新たな価値を生み出している。カナダでは技術教育ビジネスを立ち上げ、帰国後は日本の日常風景を「異世界」として再発見した。
実際、2021年、コロナ禍で帰国した森本が見た東京は、まさに異世界だった。人のいない銀座や下北沢を自転車で回り、「東京って素敵な街だな」と感じた。
森本の制作プロセスも面白い。街で撮影した風景写真に、別撮りした人物をコラージュ的に配置する。「ちょっと不安要素が欲しい。そこにいなさそうな人を描きたい」。これは、予定調和を崩すことで注目を集めるマーケティング手法にも通じる。違和感は、人の意識を捉えるトリガーだ。
ちなみに森本の大学時代の写真は、ほとんど残っていないのだという。「香港空港のWiFi2番」に接続したらFacebookがハッキングされて全部消えたからだという。「オフィシャルじゃないやつだったみたいです」と他人事のように語るあたり、アーティストらしい大らかさを感じる。
来年、高校の美術教科書に作品が掲載されるという。19歳で「レンブラントぐらいうまくならないと食べていけない」と焦っていた青年は、今、異なる価値の創造法を見出した。自動販売機という、この国で最もありふれた存在に新たな意味を与えることで、いまなおローカルの日常には普遍的価値が潜むことを森本は証明した。
価値を伝えるにあたって、森本が執念とすら言えるようなディテールへのこだわりを持ち、技術を磨き続けていたことも蛇足ながらあらためて伝えておきたい。


