ライオンと聞いて人々が思い浮かべるのはたいてい、黄金のたてがみをなびかせ、岩山の上で日差しを浴びながら、眼下のサバンナににらみを効かせる、典型的なアフリカライオンの姿だ。だが、みなさんはご存知だろうか。史上最大のライオンが闊歩したのはアフリカではなく、現在の米国にあたる土地であることを。
生物学者として筆者は、更新世末に起きた「メガファウナ(巨大動物相)絶滅」の謎に惹かれずにはいられない。なかでも、とびきり魅力的な種の1つが、学名でいうPanthera atrox、通名ではアメリカライオンとして知られる動物だ。この先史時代の捕食者は、サイズでは現生の近縁種をはるかに上回った。既知のライオンの種のなかで最大を誇る、氷河期の頂点捕食者の一員だったのだ。
アメリカライオンの叙事詩は、力と生存そして絶滅という末路の物語だ。だが、学術界の外にはまだほとんど知られていない。
圧倒的巨体のライオン
アメリカライオンはまさしく巨獣だった。化石からの推定では、オスは体重350kgに達し、特に大柄な個体は360kgを超えた可能性がある。現生のアフリカライオンの最大個体を25%も上回る数字だ。鼻先から尾の先までの長さは3.3mを超え、たくましい四肢と力強い顎で大型の獲物を倒した。
比較対象として、現生のアフリカライオン(学名:Panthera leo leo)の体重は通常150~230kgだ。つまり、アメリカライオンはただ大きかったというよりも、まったく異次元の動物だったのだ。
「ライオン」と呼ばれはするものの、アメリカライオンは、放浪の果てにアメリカ大陸にたどり着いたライオンというわけではない。現生のライオンに近縁ではあるが、アメリカライオンは独自の進化的系統に属しており、約34万年前の更新世に、ベーリング陸橋を渡ってアジアから北米に進出した祖先の血を引いていた。
アメリカライオンの生息環境
アメリカライオンの存在を示す化石証拠は、北はアラスカから南はメキシコまで、西はカリフォルニアから東はフロリダまで、北米全域の広大な範囲から見つかっている。
なかでも、化石が最も豊富に見つかる場所が、ロサンゼルスにある天然アスファルトの池「ラ・ブレア・タールピット」だ。溺れてタールに閉じ込められた動物たちの骨や化石が発見されるこのタールピットは、研究者たちが氷河期の巨獣たちの生と死を垣間見ることができる、類まれな場所となっている。



