米国の制裁はこれまで、世界市場に恐怖をもたらしてきた。各国や企業は、米国の逆鱗に触れることを恐れていた。ところが現在、ロシアに対する前例のない金融制裁が科されているにもかかわらず、数千億ドル規模の取引が依然として行われているのはなぜなのだろうか?
制裁によって従来の銀行が国際的に遮断される一方で、デジタル金融や決済技術の革新といった代替手段によって、資金の流れが変化しているからだ。ロシアの事例は金融網の回復力と、デジタル経済時代における金融制裁の限界の双方を浮き彫りにしている。
切り離しが困難な国際金融網
2022年にロシアの大手銀行が欧米の制裁対象となった際、同国を国際金融網から切り離せば、必然的に大混乱に陥るだろうという意図は明確だった。だが、数カ月も経たないうちに、この前提には亀裂が生じ始めた。
制裁への対応として、ロシアは原油の輸出先をアジアへ転換し、ドル以外の通貨で決済するようになった。同国が制裁を逃れて原油を輸出するために編成した「影の船団」は、欧米企業の海上保険を避け、並行する石油供給網を構築した。さらに、デジタルウォレットや地域決済網といった代替手段により、制裁対象の銀行を経由せずに取引を行うことが可能になった。中国の人民元決済網「国際銀行間決済システム(CIPS)」やインドのルピー建て決済システム、そしてロシア独自の代替決済システムの台頭により、制裁は強力だが完全ではないという教訓が示された。
フィンテック業界の投資家や事業者にとって、この現実は重要だ。制裁措置の適用は、デジタル資産プラットフォームや決済事業者、国境を越えたフィンテック新興企業へと拡大しつつある。コンプライアンスリスクはもはや銀行だけに限定されたものではない。2024年に各国の規制当局が科した罰金は、世界全体で193億ドル(約2兆8600億円)に達し、過去最高を記録した。フィンテック企業の約9割が、適切な要件を満たすことが困難だと述べている。新興市場に進出するフィンテック企業は、規制上の罰則を回避するためだけでなく、機関投資家との信頼関係を維持するためにも、安定したスクリーニングツールを必要としている。
制裁に適応するロシアの国内経済
ロシア国内では、制裁への適応が進んでいる。西側のブランドはロシアの商業施設から一斉に姿を消したが、わずか数カ月後には代替品が店頭に並んだ。ロシアのIT企業は、欧米のフードデリバリーアプリやライドシェアプラットフォーム、電子商取引の物流システムを模倣し、輸入代替も急速に拡大した。
ここでフィンテックは二重の役割を果たした。米クレジットカード大手ビザとマスターカードがロシアから撤退した後、国内の決済処理業者と政府が支援するデジタル銀行が、その空白を埋めた。消費者は混乱することなく適応し、現在では新たなロゴを配したクレジットカードやモバイルウォレットが、ロシア国内で普及している。国際送金には、暗号資産(仮想通貨)が新たな経路を提供した。



