「強羅花壇らしさ」とは何か
ブランドとして強固にしていくうえでは、箱根の画一的なイメージだけでなく、多面的な深みが必要になる。海外も含む多拠点展開を見据えるなか、今回満を持してオープンしたのが「GORA KADAN FUJI」というわけだ。
箱根を知る人の期待に応えるため、一方で、まったく同じではなく、少しの新しさも提供できるように、肝となるのは、全従業員レベルでの「強羅花壇らしさ」の共有だ。以前の経営陣から新旧スタッフまで約40人の“花壇人(かだんびと)”に「あなたにとっての強羅花壇らしさとは?」と聞いて得られた答えを一冊のブックレットにまとめ、精神的なアイデンティティとしている。
例えば、「口にせずとも理解する」日本の美徳は、「相手が気づいてすらいないニーズを察して先に提供するおもてなし」となる。その「推し量る」力から生まれる感動こそ、日本らしく、また強羅花壇の強みであると橋本は考えている。
富士山を仰ぎ見る開放的なロビー、オールスイートの42室からなる「GORA KADAN FUJI」には、箱根同様に伝統的な懐石料理を提供する「懐石料理 花壇」の他に、カウンター割烹、鉄板焼き「FUJI KANDA」、鮨「富士 匠」が入る。
なかでも、ミシュラン三つ星の「日本料理 かんだ」の神田裕行シェフが手がける鉄板焼き、ニューヨークで活躍する「Sushisho New York」の中澤圭二が監修する寿司は貴重な席になるだろうと、メディア内覧会でも期待の声があがっていた。
客室への順路には、強羅花壇のシンボリックな柱廊が引き継がれ、その壁には、世界的に活躍する杉本博司による「神」「山」のアート作品が並ぶ。もちろん、富士山を称しての二文字だ。湯上がりのサロンには日本の竹細工を学んだフランス人アーティスト、ニナ・フラデ氏の木工芸。あちこちにインターナショナルな美意識のなかでの日本が表現されている。
強羅花壇は、フランスの高級ホテル・レストランの会員組織「ルレ・エ・シャトー」に加盟し、ミシュランガイドではホテルとして最高の「3キー」の評価を受けている。その発信や認知もあってか、海外のゲストが多いことでも知られるが、「日本人にこそ、日本らしいと感じてもらえるものをつくっていきたい」と橋本。
「今後、国内・海外へと拡大してゆくなかで、強羅花壇の形も変わってゆきます。必ずしも、木造建築、数寄屋、ミニマルな様式をとらないかもしれない。現地の文化や歴史を紐解き、どう調和をしていくか。強羅花壇のアイデンティティを保ちながらも、各地でどんなふうにその土地らしく変わっていくのかも、日本文化を海外に広げていくうえでの挑戦だと捉えています」
2030年には宮内庁が保有していた浄水場の跡地を活用し、京都にも開業が決まっている。具体的には明かせないが、同時期に日本の他の場所での展開も視野にあるという。
日本文化への評価が高まるなか、日本発のラグジュアリーブランドの不在はよく嘆かれるところだ。強羅花壇はその旗手となるか。橋本は立ち返るべき原点を大切にしながら、“花壇人”たちとアップデートを続けていくという。100年先を見据えたその挑戦は、まだ始まったばかりだ。


