五十嵐:経済同友会が主導したアンケート結果を見ても、大企業、インパクトスタートアップの7割がインパクト会計の導入意向があることがわかったが、導入にあたっては「経営トップ、もしくは経営層の理解があるか」が決定的に重要だった。インパクト会計は、開示義務ではなく、企業による主体性によって行われるものだ。2社の事例からわかることは、最初から完璧を目指すのではなく、小さく始めて、社内、社外のステークホルダーと対話を繰り返しながらより良くしていくことが重要なのではないか。
また、経済同友会では同時に、インパクト会計導入による便益についても調査したが、いちばんは「企業価値向上」だった。開示をすれば、自動的に企業価値が向上するわけではないが、社内やステークホルダーとの対話をしていきながら、企業価値向上につなげることが次のステップとなるだろう。
売り上げ「約20%」の追加インパクト
佐竹亮(以下、佐竹):五常・アンド・カンパニーは、南・東南アジア、中央アジア・コーカサス及びサブサハラ・アフリカの14カ国で事業を展開するグループ会社及び主な投資先を通じ、マイクロファイナンス(小口金融)を展開するスタートアップだ。金融包摂を「有用かつ手頃な価格の金融サービスにアクセスできること」と考え、低所得層向けに少額の融資、預金、保険、送金等に取り組んでいる。25年3月時点のグループ会社および主な投資先の顧客数は340万人で女性が73%を占める。金融包摂という事業の特性上、環境社会パフォーマンスやインパクト評価について、経営における「一丁目一番地」と位置付けてきた。
インパクト会計は、3年前からハーバード・ビジネス・スクールと提携し、当時はマイクロファイナンス企業初でパイロット版を導入した。顧客の融資前後における収入の向上についてヒアリングして貨幣換算化した。最終的には、会計上の収益、売り上げと比較し、約20%の追加的なインパクトがあることがわかった。ただ、パイロット版導入時に期待していたクオリティが実現できたかというと難しい。顧客のライフサイクルにおけるインパクトを考えた際、収入増は最初の一歩でしかない。何に使ったのか、どう生活が変化・改善したのかまで追えないと本当のインパクトは得られないのではないか、と社内で話をしている。
ここ数年は、フィナンシャル・ダイアリー調査という、顧客の日々のお金のやりくりを記録する調査を行っており、低所得層の人たちがどのように暮らし、家計をやりくりしているのかを分析している。これを最も重要な定量調査のひとつに位置付け、インサイトをレポート形式で開示している。
インパクト会計と直接関係はないが、社内の人事評価にも、我々がソーシャルゴールと呼んでいる顧客の満足度、アウトリーチなど財務情報では評価できない非財務についても目標設定し、評価につなげている。また、ホールディングスに在籍している40人の社員のうち、3人がインパクトにかかわるなど、人的リソースも割いている。
KEYWORD 3|インパクトスタートアップ:「社会課題の解決」と「持続可能な成長」を両立させ、ポジティブな影響を社会にもたらすことを目指すスタートアップ。2022年に設立されたインパクトスタートアップ協会の正会員は249社。設立時の23社から3年で10倍以上に増加するなど新しい潮流を生んでいる。


