ヘルスケア

2025.09.21 12:00

猛暑に悲鳴を上げる「心臓」 気候変動対策が私たちにとって重要な理由

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臨床医として筆者は心臓・肺移植に長年携わってきた。少なくとも週に一度は機能不全に陥った心臓を摘出し、非業の死を遂げた誰かの健康な心臓と交換するという医療でも屈指の過酷な現場だ。

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移植とは最後の手段であり、他のあらゆる治療方法に効果がない場合に行う根本的な処置である。この経験から確信できるのは、予防こそが何より肝心だという一点に尽きる。心臓を健康に保ち、移植を検討せざるを得なくなるその時を遅らせたり回避したりできれば、命を救うだけでなく、活力に満ちた日々をも守れるのだ。

心臓病の治療経験に根ざしたまなざしは、気候変動や異常気象の増加、誰もを辟易とさせる猛暑日の連続に対する見方にも影響している。筆者にとって、気候変動は抽象的な概念ではなく、心臓に対する直接的で測定可能な脅威である。しかもその危険度は年々高まっている。

筆者の心臓だけではない。読者の皆さんの心臓も、その子どもや孫たちの心臓も危機にさらされている。そして、これを裏付ける科学的な根拠は山ほどある。

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世界気象機関(WMO)、米海洋大気庁(NOAA)、米航空宇宙局(NASA)の発表によれば、2024年は史上最も暑い年として気候変動史を塗り替えた。世界の平均気温が産業革命前の水準を1.5度以上上回り、パリ協定の重要目標を初めて単年で超えたのだ。

産業革命と共に始まった温暖化の長い歩みは止まることなく続いている。2024年の高気温は異常値ではなく、一世紀半にわたる気温上昇の歴史の中で最も新しく、最も憂慮すべき指標となったのである。これが事実だ。

2024年の世界の平均地表温度を1991~2020年の平均と比較した地図。平均より高温だった地域は赤色で、低温だった地域は青色で示されている。グラフは各年の世界の平均気温と20世紀平均との比較(Image credit: NOAA Climate.gov, using NOAA NCEI data)
2024年の世界の平均地表温度を1991~2020年の平均と比較した地図。平均より高温だった地域は赤色で、低温だった地域は青色で示されている。グラフは各年の世界の平均気温と20世紀平均との比較(Image credit: NOAA Climate.gov, using NOAA NCEI data)

暑さと心臓の関係

人体は、極度の暑さにさらされると自らを冷却しようと懸命に働く。これは医学部に入学して最初の年に学ぶ基礎生理学の知識だ。すなわち、血管が拡張し、心拍数が上昇し、心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液の総量)が増加する。

そこからは需要と供給の問題となる。これらすべては心臓の酸素需要を大幅に高め、患者によっては虚血状態、不整脈、心不全の憎悪を引き起こす恐れがある。

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翻訳・編集=荻原藤緒

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